第38話 スラム街視察
馬車を降りると、鼻を刺激するツーンとした匂いが広がっていた。
少し表情が崩れたのを感じるけど、仕方ないよね。
周囲を見回すと、壁の裏からこちらを見つめる子供達の姿がちらほら見える。
「お父様? 孤児院があると聞いてるんですが、どうしてここの子供達は孤児院に行けないのですか?」
「一番の理由は、スラム街の子供達が受け入れてくれないのがある」
「え!?」
意外な事実に驚いてしまった。
だって…………少なくとも孤児院に入る事で、眠る場所で食事が取れるはずだ。
「――――自由?」
思わず、自由という言葉を口にする。
それに対して返事が返って来ないのは、それが答えだという事だろう。
孤児院に入れば、自然と決まった時間に起きて、決まった時間に眠って、決まった事をやらされて、決まった枠の中で生きる事になる。
それが合わない人だって必ずいる。
それは知っているはずなのに、このやるせない気持ちはなんだろうか?
馬車は御者と兵士に守らせて、御者と共に来た爺を加えた5人でスラム街を歩く。
景色はどこもボロボロの家で匂いも酷く臭い。
「お父様。向こうの中を歩いても?」
「構わん」
お父様もきっと匂いがきついはずなのに、付いて来てくれる。
僕達が向かうのは、ボロボロの家の間に繋がっている細道。
僕達が歩いた場所は大通りで、裏通りは見えない。
どうしてか裏通りが気になって向かう事に。
裏に向かうとますます匂いが酷い。
お父様もセレナちゃんもセブンさんも胸ポケットからハンカチと取り出し鼻を塞ぐ。
僕は塞ぐ気持ちになれず、そのまま進む。
僕のせいで爺に我慢させてしまうのは申し訳ないと思いながら歩き進めた。
細道を歩き進めて奥に行くと、中央に焚火があり、そこを囲って大勢の人達が少ない食料を分け合っていた。
「ここは……?」
その場にいた全員が一斉に僕達を見つめて驚く。
「き、貴族様? 辺境伯様!?」
全員がその場に跪く。
「急な訪問。すまない」
「このような場所に…………」
「すまぬな。
跪いたまま、みんなが僕をちらっと見る。
「ここはどういう場所ですか?」
「は、はいっ。こちらは集会場になっております。お城から送くられたり、ボランティアの方々から食料を貰ってここで分け合っているのです」
きっと生きるためにこういった集団が生まれたのだろう。
「あの…………どうして働かないのか聞いてもいいですか?」
「え、えっと……?」
「街には働き口も多いと思います。そこで働いた方が生活は楽だと思うんです」
「…………」
「答えにくいことかも知れません。ですけど、僕は知りたい。どういう事情があるのか。聞かせて貰えませんか?」
みんなが僕を真っすぐ見つめる。
僕もそれに応えるかのように、胸を張って同じ目の高さで目を目を合わせた。
少し戸惑ったようにそれぞれが目を合わせると、一人の女の子が声を上げる。
「働きたかったら身体を触らせろって言われたんです! それが嫌で……そうしたら働く場所がなくなって…………」
それを皮切りにそれぞれが働けない理由を教えてくれた。
彼女のように誰かの悪意に晒されて働けない者も多かった。
でも中には働きたくないという、ただのわがままの人も沢山いた。
ただ……一つだけ思うのは、彼らは目標や夢がないように感じる。
というのも「働いてお金があっても食べる事以外何もすることがない」と言っていた。
一人一人の意見を聞いて、僕の心に一つだけ灯った気持ちがある。
みんなと一緒に楽しい事をやりたい。
とにかく、それだけが僕の心から湧き出る。
昔のキャンバルさんは生きるだけで楽しい事は何もなくて、食事も楽しくなかったと爺は言っていた。
ここにいる人達もキャンバルさんと何ら変わらないと思う。
楽しい事があれば――――――――やりたい事も見つかって、そこに向かって輝ける気がした。
だから、僕は彼らに一つだけ提案をする。
「みなさん。みなさんの意見を聞かせてくれてありがとう。僕がここでみなさんに食事をただ振る舞うこともできるでしょう。けれど、それは答えじゃない気がするんです。そこで僕から一つだけ提案させてください。僕はここから北に向かった場所にあるジアリス町で領主をしています。もしよかったら――――――僕の町に遊びに来ませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます