第35話 辺境伯
「…………爺」
「ダメです。こればかりは絶対です」
「ううっ…………でもぉ…………」
「このためにずっと練習してきましたから。それに――――セレナを紹介するのではないんですか?」
お城に続いている道。
その理由はたった一つで、僕のお父様に会うためだ。
会って何をするのかというと、一つはバルバギア王国軍が侵攻してきた事、一つはセレナちゃんとの――――。
でも凄く緊張してちょっと中のモノが上がって来そうな気配が…………ううっ…………。」
歩いている最中にもセレナちゃんが僕の背中をさすってくれて、おかげで凄く元気が出た。
ゆっくりと歩いてお城の上面にたどり着いた。
「止まれ! 何の用だ!」
衛兵に止められる。
「こちらを」
爺がもう一つの紋章を見せる。
これは間違いなくインハイム家の紋章で、世界的に効果がある程の代物だという。
「こ、これは!?」
「こちらはキャンバル様である。辺境伯様に急いで取り次いでくれ」
「か、かしこまりました! 少々お待ちくださいませ!」
衛兵さんが慌てて中に走っていく。
その姿が少しおかしくて、クスっと笑みがこぼれた。
少し待っていると、中から執事服の人がとんでもない速度で走ってきた。
「セバスか」
「久しいな。ミル」
「お前がここにいるという事は…………キャンバル様はどこに?」
「こちらにいらっしゃるではないか」
隣の僕を見た執事さんが不思議そうに爺を見る。
「そうか。お前でも気づかないか。まあ、問題もない。キャンバル様の昔の姿からは想像もできないだろうからな」
「っ!? ほ、本当にキャンバル様!?」
「私が一緒にいるのがその証拠だぞ」
「!? た、大変失礼しました…………いつも通り無理矢理入って来るものだとばかり…………」
あぁ…………キャンバルさんのわがままならそうしたかも知れないね。
ミルと紹介されたのは、インハイム家の当主――――つまり、お父様の執事との事だ。
彼に案内されて中の――――大きな扉の前に案内された。
「キャンバル様。入場~!」
入口の前の兵士が大きな声でそう話すと、大きな扉が開いて中に広い場所が現れた。
美しい絨毯が真っすぐ続いていて、その横に柱が等間隔に並んでいて、その前に兵士達が長い槍を持ってきちんと立っていた。
そして、部屋の一番奥。
階段が十段程あり、その上に大きな椅子――――玉座があり、そこには大きな身体を持つ立派な髭が特徴のおっさんが一人座ってこちらを見下ろしていた。
このおっさんこそ――――――僕のお父様だ。
ゆっくりと絨毯を進んで行く。
後ろから爺、ベリル、セレナちゃん、ミアが付いて来てくれるけど、もしこの四人がいなかったら逃げ出していたかも知れない。
何度もこの場面を想像してきたからこそ、緊張を感じながら進む。
少しずつお父様の顔が鮮明になったくらいの距離。
そこには、驚きのあまり、目を見開いて口まで開いているお父様の顔があった。
それが少しだけ間抜けに見えて、クスッと笑いそうになったけど、なんとか我慢した。
もしかして、お父様とちゃんと話せば、仲良くなれるような気がする。
「キャンバル。ただいま戻りました」
「なっ!? キャン……バル!?」
貴族風挨拶を終えて、顔を上げて真っすぐお父様を見つめる。
爺が言っていた通り、僕は全てお母さん譲りらしくて何一つ似てる所が見当たらない。
金色の髪も目の色もお母さん譲りで、顔の整えも若い頃のお母さんそっくりだそうだ。
「………………レイヤにそっくりだな。ああ、キャンバルで間違いないな。すまなかったな。息子よ。あまりの変貌ぶりに驚いてしまって中々信じられなかった」
レイヤというのは、お母さんの名前だね。
そうか……やっぱり、キャンバルさんってお母さんに似てるんだね……。
「ジアリス町と白銀商会の契約更新のため、一度領都に寄りましたのでご挨拶に参りました」
「!? そ、そうか…………それで、ジアリス町はどうだ?」
「お父様」
「うむ?」
「ジアリス町がバルバギア王国軍に侵攻されました」
「なんだと!?」
その場に立って驚きを露にする。
「ですが、彼らを撃退し、こちらの――――女神石というモノを奪い取りました」
厳密には奪い取ったんじゃないけど、話がややこしくなるから爺から奪い取った事にしておくように言われている。
「まごうことなき女神石である!」
もしかしたらお父様なら知っているかもと聞いてるけど、やっぱり知っていたみたいだ。
これはハーミットに女神石について聞いた時、隣国のバルバギア王国軍が持つ秘宝の一つで、大きな価値があるモノだと教わった。
敵が持つ秘宝なら辺境伯様であるお父様が知っていてもなんらおかしくないよね。
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