第27話 迫りくる悪意
◆ジアリス町から程遠くない森の中◆
乱雑に置かれた薪には囲む人々の想いを表すかのように焚火が舞い上がっていた。
「ちっ。あのクソ領主が」
怒りを露にして焚火の中に木材を投げ込むのは、キャンバルによって追い出される形になったグレインだった。
「グレインさんよ~俺達の護衛代は払ってもらうからな~?」
「わ、分かってる! だがな……このまま手ぶらで帰ると俺の首が…………」
前回
元々キャンバルから詐欺まがいの値段で巻き上げたお金でのし上がったグレインだからこそ、現状は非常に危険な立場になっている。
キャンバルを困らせようと半年間も物資を運ばなかったのにも関わらず、キャンバルは何一つ購入しなかったのだ。
「グレインさんよ。このまま帰ったらお前さんも困るだろう?」
「それが困っておるのだ!」
「くっくっ。そう怒るなよ。俺に良い考えがある。そもそもだ。
「…………そうだな。あの小娘のせいでキャンバルが変な勘を働いたな」
「そうだ。全てはあの小娘のせいなんだ。だからよ。こういうのはどうだ?」
護衛はグレインに作戦を伝える。
一瞬驚くグレインは直ぐにニヤリと笑みを浮かべて握手を交わした。
◆
「美味しい~!」
テーブルに並んでいる美味しそうな料理を食べると思わず叫んでしまった。
「お口に会えばよいのですが……」
「凄く美味しいよ! エレク兄さんの料理も凄く美味しいけど、セレナちゃんが作ってくれる料理も凄く美味しいよ! むしろ、僕はこっちの方が好きかも!」
「あ、ありがとうございます!」
次々美味しそうな料理を運んでくれてテーブルの向かいに座る。
すっかり日が落ちて、ジアリス町には暗闇が訪れ、セレナちゃんの家にはテーブルの周りを照らすロウソクがひらひらと踊っている。
灯火の光を受けたセレナちゃんはどこか大人びた雰囲気があり、凄く綺麗だ。
「あ、あの? キャンバル様?」
「あ! ごめん。凄く――――綺麗だったもんだから」
「っ!?」
急にあわあわし始めるセレナちゃんが可愛くて、自然と笑い声が漏れてしまった。
ゆっくりと二人で美味しい料理を食べながら、たわいない事を話しながら楽しい時間を過ごした。
「キャンバル様? 帰り、気を付けてくださいね?」
「セレナちゃんもゆっくり休んでね」
「はい…………また、明日」
「うん! また明日!」
何故か少し寂しそうな表情を浮かべたセレナちゃんが手を振ってくれる。
よく分からないけど、僕も心の中がモヤモヤするけど、もう夜だし、屋敷に帰っていった。
◆
「キャンバル様」
僕を呼ぶ声が聞こえて目を覚ますと、まだ外は暗闇に包まれていた。
「ベリル?」
「はい。ベリルでございます。至急お伝えしたい事が」
「緊急事態?」
ジアリス町は普段から緊急事態は殆ど起きない。その理由は噴水の中に住んでいるアクア様のおかげなのだが、基本的に魔物が寄り付かないからだ。
その理由もアクア様が住んでいるからと最近知った事なんだけど、それもあってジアリス町は基本的に平和なのだ。
けれど、脅威は何も魔物だけではないという。
「はい。どうやら賊が町を狙っているようです」
「分かった。すぐにいく。ジェラルド達は?」
「屋敷を守っております」
「ベリルは相手の動きを逐一報告して、僕はジェラルドのところに向かうよ」
「かしこまりました」
そう言い残したベリルさんの身体が嘘のようにその場から消えた。
闇魔法を開花したベリルさんは、誰よりも自然体で魔法が使えるようで、中でも上位スキルである『無詠唱魔法』をある程度使えるそうだ。
闇に紛れるのもまた闇魔法の強みの一つだね。
僕は急いで部屋を出て廊下を走り抜ける。
ここ数か月鍛えた身体のおかげで息一つ乱れる事なく、屋敷の玄関口にやってきた。
「キャンバル様。屋敷の者は全員集めております」
「ご苦労。ジェラルドと爺は屋敷の者を守ってもらいたい」
「キャンバル様は?」
「僕はベリルと一緒に迎撃に向かうよ」
「…………キャンバル様」
ジェラルドが僕の両肩に手を上げた。
「これから敵対するのは魔物ではありません。我々と同じ人間です。魔物以上に厄介なのが敵意を持った人間なのです。戦えば相手はどんな卑怯な手を使ってでもキャンバル様を殺そうとするはずです。慈悲は要りません。相手の両手両足を斬り落とす、場合によってはその首を斬り落とす覚悟でいてください」
真っすぐだけど、どこか優しさを感じる瞳が僕の瞳を覗く。
ジェラルドはいつも僕の事を第一に考えてくれる。
以前から話は聞いていたけど、同じ人間を斬るというのは大きな罪悪感を感じるモノだと聞かされていた。
だからこそ、今一度、ジェラルドは僕にこうして語ってくれているんだと思う。
「うん。僕も領民を守りたいんだ。敵は――――倒してでも守るよ」
覚悟を決めて、僕は屋敷を後にした。
「ジェラルドさん。キャンバル様を行かせて良かったんですか?」
ミアがジェラルドに疑問をぶつける。
守るべき主を戦場に行かすのが納得いかなかった。
「うむ。本来ならここで守られるべきだろう。だが、キャンバル様は強くなられた。単純に身体だけではない。心も強くなられた。けれど…………一番大切なモノが足りてないのだ」
「一番大切なモノ……ですか?」
「ああ。自分の手で領民を守るという領主としての心構えだ。キャンバル様なら大丈夫。何より――――――我々の主なのだ」
ジェラルドの言葉に、全員がキャンバルの無事を祈り続けた。
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