第26話 商人
数日後。
いつもと変わらない日々が続いていて、今日はお昼をセレナちゃんと一緒に食べている。
というのも、ジェラルドさんが他の人の訓練に忙しいから、ここしばらくの稽古は休みとなったのだ。
僕としては一人でやってもいいんだけど、なぜかジェラルドさんと爺から休むように念を押されてしまった。
「アレク様のお料理はいつも美味しいですね~」
「あれ? セレナちゃんって一人暮らしだっけ」
「そうでございます」
「う~ん。料理は自分で作っているの?」
「はい。自分で食べる分は自分で作っております」
アレク兄ちゃんの料理は間違いなく町内でも一番美味しい。
でもセレナちゃんの料理も凄く気になる。
「セレナちゃん! 僕、セレナちゃんの料理が食べたい!」
「えっ!? きゃ、きゃ、キャンバル様!? 私如きの料理なんて……アレク様の足元にも…………」
「え~ダメ?」
「っ!?」
考え込むセレナちゃんがまた可愛い。
下を向いて悩んでいるのはいいんだけど、僕の視線からセレナちゃんの胸元から中が見えそうになっている。
――――おっぱい。
そういえば、最近触ってなかったな。
爺から、あまり触るもんではないと言われたけど、本人に触ってもいい? と聞くといつも、いいと答えてくれたりする。
「美味しく……ないですけど…………それでも良ければ……頑張りますぅ……」
「わ~い! 楽しみにしてるね! じゃあ、今日の夕飯はなしってアレク兄ちゃんに言わなきゃ」
「は、はいぃ…………」
アレク兄ちゃんに今日の夕飯はセレナちゃんの家で食べると伝えるといくつかの食材を貰えた。
セレナちゃんの家に食材を運んであげる。
初めて来たセレナちゃんの家は、町内の他の家と何ら変わりはなく、普通といえば普通なのだが、屋敷と比べるとみすぼらしくも思える。
そもそも領民達が住んでいる家がボロいのだ。
家とか大地魔法で建て替えてもいいかも知れないね。
セレナちゃんの家の中はとても綺麗な部屋で、生活感はあるがどれもしっかり整理整頓されていて、ベッドには可愛らしいぬいぐるみが置かれている。
窓際には最近栽培している花が飾られていて、花の良い香りが部屋に満ちていた。
丁度食材を置いたタイミングで、外から僕を呼ぶ声が聞こえて外に出ると、ミアさんが見えた。
「キャンバル様! こちらでしたか。屋敷にお客様が訪れているので、待たせております。ぜひお会いになってくださいませ」
「お客さん? 僕に?」
「はい。――――――久しぶりの商人でございます」
たまにしか訪れてこないという商人が数か月ぶりにやってきたみたいだ。
◇
「初めまして。
「初めまして。ジアリス町の領主、キャンバルだ」
グレインさんはふくよかなタイプの人で、着ている衣服も商人らしからぬ上品なモノを着ている。
握手を交わしてソファに座る。
「こちらはセレナ。交渉役を任せている」
「セレナです。どうぞよろしく」
「うむ。可愛らしい娘さんですね。よろしくお願いします」
何というか………………凄い不愉快。
セレナちゃんを見つめる視線というか、凄く嫌らしい視線に感じる。
「ごほん。では商談に参りましょう。前回はあまり品を購入なさらなかったので、今回は良い品を沢山揃えて参りました」
僕、あまり人の思惑とか分からないけど、この人が言いたい事くらいは分かる。
爺曰く、うちは貧乏領なのでそもそも現金がなく買い物があまりできないそうだ。
辛うじて父親である辺境伯様から送られてくる僕のための仕送りくらいで、生活は自由にできてるそう。
でも満足に買いたいモノばかり買える程裕福ではないそうだ。
彼が言う、前回あまり買わなかったというのは多分本当の事だろう。
だから、数か月間、ここに来なかったと威圧しているように感じる。
ふふふっ。これも前世で読んだ『交渉術』という本に書かれていたもんね!
「それはありがたい。ぜひ品を見せてもらいたい」
「ははっ。外に待たせております」
「では早速向かおう」
そうして三人で表に出た。
表には荷馬車が二台あって、護衛と思われる柄の悪そうな人が数人と御者が二人、店員と思われる人が一人いた。
「新鮮な海鮮や果物もございます」
「見せてもらいます」
セレナちゃんが中身を確認するが、やはり柄の悪そうな人達は嫌な視線を送っている。
暫く品定めをしたセレナちゃんが店員と何かを話すと大袈裟に驚く。
「セレナ? どうしたんだ?」
「キャンバル様…………えっと……思っていた以上に値段が高すぎます」
店員から値段を聞かされたのだろうな。
それにしても高すぎという言葉は気になる。
「これはこれは。その値段はこれ程の鮮度の高い商品をここまで運ぶ運賃が追加されております」
「運賃……?」
「はい~ここに来るのも大変ですからね~いかんせん、領都から離れているモノでして~」
爺から聞いた話では、商会は辺境伯様からある程度支援してもらっているはずでは?
「俺の記憶が正しければ、お父様からの支援があるはずだが?」
「なっ!?」
グレインの顔が一気に険悪に変わる。
「キャンバル様。我々がここに持ってこないと、商品は買えませんよ? もう少し
「うむ。ちゃんと考えても運賃はお父様が払っているのだから、その分の上乗せには疑問が残る。セレナ。お前の見立てではどれくらいが妥当だ?」
「はい。運搬費用を考慮してもこちらの魚なら箱で銀貨1枚が妥当。ですけど、それを銀貨10枚というのはあまりにも高額でございます」
「高額ではない! 魚の鮮度を維持するのもお金がかかるんだぞ!」
確かにグレインの言い分通り、箱には氷の魔法が付与された魔石が灯っている。
「それを差し引いても高額なのは間違いないです。それにこちらの魚――――――質があまり良くないですね? 銀貨1枚ですら高いと感じざるを得ません」
「なっ! お前みたいな小娘に何が分かる!」
思い通りにならないと怒るのは、何か後ろめたさがある時だと交渉術の本には書かれていたし、僕も目の前の彼からはそれを感じる。
「グレイン。お父様に
「なっ!? キャンバル様! こんな小娘の言葉を信じるのですか! 私はここ数年、ここに通った商人ですぞ!?」
「だからこそ、この2年分も込めて相談させてもらう」
「ちっ…………後悔なさいますよ?」
「後悔か……後悔は十分しているつもりだ」
グレインは悪態をつきながら帰って行った。
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