第25話 魔力量の秘密
町民達の魔法開花の儀から一か月。
ジアリス町はというと、増やした土地で育てた果物や野菜が予想以上に早く育ち、一気に食糧事情が解決した。
アレク兄ちゃんやメリッサさん曰く、非常に美味しいらしくて、それもこれもアクア様の聖水雨のおかげだと思われる。
次に、ジェラルドさんを擁する自警団が発足して、攻撃的な魔法が得意な町民達数人が参加してジアリス町の安全を守っている。
おじさんズの6人は相も変わらず毎日魔石を取って来てくれる。だがその量がおかしい。
以前は毎日20個から30個程取って来てくれるけど、最近は100個に及ぶ数を取って来てくれる。
アクア様は毎日20個までしか食べないので、屋敷の倉庫に貯まる一方だ。
最近ではおじさんズに新人3人が加入する事になって、それがバロンくん達3人である。
彼らも毎日稽古を受けたり、改善した食糧事情も相まって、やせ細っていた身体は嘘のように消え、今では細マッチョになっている。
9人は毎日面白いように魔石を取って来てくれるんだけど、中にはオークの魔石だけじゃなくて、強い魔物の魔石が入っていたりする。
「キャンバル様。遂に魔力量上昇の方法が分かりました」
その手に僕の記録を記したノートを持つ爺が満足したように笑みを浮かべる。
「わあ! それならみんなも魔力量を増やす事ができるね! 凄い!」
「それが…………増やせる人は殆どいないと思います」
意外な答えに、僕は首を傾げる。
「キャンバル様がどうして魔力量が増えるのか、ずっと疑問でした。それに増える速度も早ければ、量も多かった」
爺の言う通り、今の僕の魔力量は以前測った時よりも遥かに多くなっている。
例えるなら、ジアリス町の町壁を作っていた頃、一周分を作るのに100日掛かりそうだったのが、20日で完成した時点でコップいっぱいに光が灯るくらいには増えていた。
それが今では、町の壁なら一日で作っても余るくらいには増えている。
コップの光も今ではコップ中に留まらず、外に漏れだす程になっているのだ。
「僕が増えたって事は、みんなも増やせられるんじゃないの?」
「はい。理論上は可能です。ですが、殆どの人が無理だと思われます」
殆どの人が無理? どうしてだろう?
「ふぅ……では、キャンバル様の魔力量が増大した理由ですが――――――
一言でいいますと、痩せたからでございます」
「えええええ!? 痩せたから!?」
あまりにも想像だにしなかった理由に大きな声が出てしまった。
「それもただ痩せるだけではなかったのです」
「ただ痩せるだけではダメ?」
「はい。ただ太るだけではいけないのです。なぜなら――――魔力量の元になる成分は、
塩分? 塩? いつも食べている塩の事だよね?
首を傾げる僕に爺は続けた。
「これは予想の範囲でしかないのですが、塩分を大量に摂取した人は心臓の勢いが強くなるといいます。貴族で多い症状ですので、既に特効薬も存在しておりますが、それは強制的に心臓の勢いを弱める毒薬になります」
爺が言っている毒薬は、以前勉強の時に教えてもらったことがある。
世では通常の摂取では毒なんだけどとある人達には薬になる毒もあるということ。
その毒はきっと血圧を下げる毒なんだろうけど、太った高血圧の人達には薬なのかも知れないね。僕も本で読んだだけだから、血圧とかよくわかんないし。
「心臓の勢いが強くなり、それを克服する事で魔力量が増大していると思われます。それを狙うとなると、まずは塩分が濃い食事を数年掛けて食して、キャンバル様のように毎日運動や食事改善を行う必要があります。しかし、これには大きなリスクが伴います。そもそも塩分を大量に摂取して毒薬なしで生きられる人はそう多くありません。以前のキャンバル様が生きていたのは奇跡に近いのです」
ひ、ひぃ…………キャンバルさんが毎日あんなしょっぱい食べ物を食べ続けたのは、本当に危ないことだったんだね。
でもキャンバルさんが頑張ってくれたおかげで、こんなに魔力量が増やせたから感謝すべきかな?
「キャンバル様。この情報は世界に広めてはなりません。世界が崩壊します」
「…………まさかとは思うんですけど、知ると試す人が激増するとか……?」
「はい。間違いなく世界中の魔法使いの半数は――――死にます」
うん。機密情報。絶対に誰にも教えない。
でも爺と一緒に秘密にするのもいいな~。
「爺、これは僕達だけの秘密だよ?」
一瞬目が大きくなった爺は、すぐに笑みを浮かべる。
「もちろんでございます」
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