第24話 それぞれの――――魔法

「魔力は自分の心臓から感じ取るんだ! 必ずあると信じて祈りなさい!」


 爺の声が噴水前の広場に木霊して、一人、また一人が魔力の水晶に祈りを込める。


 それを住民達全員が繰り返した。


 そして…………。


「おかしい…………」


 爺が喜ぶ住民達の前で呆気にとられる。


「アレク兄ちゃん」


「はい?」


「アレク兄ちゃんもやってみてよ」


「へ? い、いいえ、俺には才能がなかったので……」


「いいからいいから~」


 僕に背中を押されて、仕方なく水晶に手を翳す。


「心臓から……心臓から…………」


 その時、水晶が光り出して、真っ赤に染まった光が広まった。


「わあ~! アレク兄ちゃん! 火炎属性が使えるよ! これならいつでも火が起こせるし、便利だね!」


「な、なあああああああ! 俺に魔法の才能が……あったという……のか?」


 驚いているアレク兄ちゃんを退かして、今度は屋敷で働くメイドさん達にも試して貰う。


 全員が才能はないと言いながら、何かしらの属性を開花させた。


 中でもメイド長をしてくれる柔らかい笑みが特徴のメリッサさんは水流属性にまさかの回復属性の二つで、更にはミアさんに関しては、聖属性に突風属性に電撃属性というトリプル属性という世にも珍しい多重属性持ちだった。


「次はジェラルド!」


 基本的に下働きの者にさん付けは禁止されているので、呼ぶときは名前で呼ばないと爺に怒られるのだ。


「かしこまりました」


「心臓だよ?」


「はっ!」


 そして、ジェラルドさんは戦いに便利だと言われている大地属性を開花した。


「最後は――――爺だよ?」


「わ、私もでございますか?」


「もちろん! さあさあやってみてよ~」


 中々動かない爺の背中を押して、無理矢理手を翳させる。


「爺? 心臓だよ? 心臓!」


「かしこまり……ました…………」


 そして――――美しい藍色の光が広がった。


「凄い~! 六大属性の中で一番珍しい氷晶属性だ~!」


「い、一体何が……ありえない……全員が才能がある? そんな…………」


 これで、屋敷の者だけでなく、町民達全員が何かしらの魔法の才能を見出した。


 多重属性はメリッサさんとミアさん、そして――――セレナちゃんだけだったけどね。




 ◇




 爺の知識で町民達が魔法の訓練を開始する中、僕はセレナちゃんとメリッサさんとミアさんの担当となった。


 要は多重属性を持つ三人の先生だ。


「多重属性はね~色を想像するんだ」


「「「色ですか?」」」


「うん! 心臓の中にある魔力の色って元々何色もないんだ。だから使いたい色を出すんだけど、多分自分が好きな色しか使えないんだと思う。だからみんなは自分が持つ属性の色を想像してみて」


「「「はいっ!」」」


 それから色を変えるコツなどを教えたり、魔法をイメージする方法を教えた。


 一つだけ不思議に思えたのは――――


「癒しの力よ、顕現せよ! ヒーリング!」


 メリッサさんが回復魔法を使うけど、必ず呪文を唱えている。


 どうやら呪文は心の底から出て来る言葉で、自然と言葉になるらしい。


 僕は呪文なんて出てこないけど、そこがみんなと違う点かな。


 住民達を覗いてみると、みんなも魔法が使えるようになっている。


 爺も初めて使うはずなのに、慣れた手付きで魔法が使えるんだから、やっぱりうちの爺は凄い!




 それから十日が経過した。


 アレク兄ちゃんの場合、火を起こすだけでなく、強い火が欲しい時は自分で魔法を発動させながら料理をしたり、メリッサさんは僕が教えたヒーリングボールを投げる練習をして遠くの人を回復させたり、爺は氷魔法で皿を一瞬で冷たくしてデザートを美味しくしてくれたりと、それぞれが魔法を生活に取り組ませて楽しそうに過ごしていた。


 そんな折、一人の男が僕の元にやってきた。


「ベリルさん」


 キャンバルさんのせいで奥さんを亡くしたベリルさん。


 普段から強面で、常に怒ったような表情をする。


 ベリルさんもまた魔法に目覚めている。


 そして、僕を訪れた。


「キャンバル様。俺は…………」


 もし、もしもだ。


 ここでベリルさんが僕の命を狙うなら、僕はどうするのだろうか。


 きっと、奥さんの仇討ちになるなら受け入れるかも知れない。


 でも、どうしてか泣くセレナちゃんの顔が浮かんだ。


 ベリルさんが動く。


 そのまま――――――
















「俺は闇属性を開花した上に、町民の中で一番魔法が得意です。特に戦闘に関してなら、この町でジェラルドさんと肩を並べる強い自信があります。俺を――――俺をキャンバル様の魔法使いとして働かせてください」


 貴族の魔法使いというのは、忠誠を誓った貴族の…………主に手を血で染める役割と代わりに担う存在だ。


 つまり、用心棒であり、剣となるのだ。


 ベリルさんは、僕の前で跪き、そう嘆願した。

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