第16話 撒き餌よりも釣竿
魔石も十分に集まった事で、町に戻ると入口ではセバスお爺さんが落ち着かない雰囲気でソワソワしていた。
「ただいま~」
「キャンバル様! どこかお怪我はございませんか?」
「ほら、怪我一つしてないですよ~おじさんズが頑張ってくれて、楽勝でした~!」
「おじさんズ?」
あっ! 口に出してしまった!
少しすると後ろから大きな笑い声があがる。
「おじさんズはいいべ~うちらおじさんズだべ~」
「そだ~そだ~おじさんズいいだ~」
どうやら意外にも気に入ってくれたみたいでよかった。
それから戦果をセバスお爺さんに報告するという事で、僕だけ先に屋敷に戻ってアレクお兄ちゃんが作ってくれた美味しい夕飯を食べて眠りについた。
今日一日中走り回ったのもあって、ぐっすりと眠れた。
次の日。
いつもと変わらない日課を終えて、昨日手に入れた魔石を持って噴水にやってきた。
ジェラルドさん曰く、おじさんズは6人だけで荒野オークを倒しに出かけたみたい。
特別個体は数年に一度現れるかどうからしくて、強い敵が急に現れる心配はないみたい。
それに荒野は視界も良いので、もしもの時は全力で逃げてくるようだ。
噴水ではセレナちゃん達が水を汲んで噴水の下で洗濯をしていた。
「おはよう~セレナちゃん」
「おはようございます! キャンバル様!」
セレナちゃんはいつも元気な笑顔を見せてくれるから僕も自然と笑顔になる。
「それは何ですか?」
僕が持っていた箱に視線を向けるセレナちゃんが聞く。
「これは昨日取ってきた魔石だよ~これから噴水に入れるんだ」
「ええええ!? 噴水に魔石を入れるのですか!? キャンバル様! だ、ダメですよ!?」
「えっ?」
「あ、あわわ…………魔石には自然を汚す力があるんです。だから水の中に魔石を入れてしまうと汚れて水が使えなくなるんです」
あれ? でもアクア様は噴水に魔石を入れてくれと言ってくれたんだけど…………。
う~ん。
でもセレナちゃんが嘘を言っている気はしないし…………。
「セバスお爺さん。水が汚れるって本当ですか?」
「その通りでございます。ですがアクア様がそれを望まれるのであれば、そうした方がいいと思い、問題ないかと思っておりますた」
「う~ん。でも水が汚れるのは嫌だし…………」
セバスお爺さんも困った表情を浮かべて噴水を眺める。
そもそも、この噴水は町民達にとって一番大切なモノなんだから、少しでも汚れる可能性があるならしない方が良い気がする。
でも腹ペコなアクア様をそのままにするのも可哀想だと思う。
「う~ん」
何とかする方法はないかな…………。
…………。
…………。
「あ~! じゃあ、こうしたらいいんじゃないかな~!」
僕は思いついた方法を試すために屋敷に全力で走って向かった。
◇
「キャンバル様? それは何をしているのですか?」
セレナちゃんが不思議そうに首を傾げて僕を覗いてくる。
噴水の前では僕が持って来た物に興味津々みたい。
僕が持って来たのは、自分の背丈よりも長い2メートルくらいの棒と、裁縫の時に使う糸を持って来たのだ。
ミアさんに聞いて一番丈夫な糸を貰って来たので、切れる心配もないね!
棒の端に糸を括りつけて、反対側の糸に魔石をくるくる巻く。
「できた~!」
「わあ~! 釣竿みたいですね!」
「うん! 本で読んだ釣竿だよ~!」
「あれ? でも糸がだいぶ短いですよ?」
「短くていいんだ。水の中に魔石を入れたくないからね」
僕はゆっくりと魔石を垂らした棒を噴水の上に動かし、溢れている水面から30センチの所で止めた。
そして、数秒間待つ。
「キャンベル様? それでいいのですか?」
「うん! アクア様が魔石を食べたいなら、ここまで来てくれると思うから」
「…………アクア様って噴水の中で暮らしておられるのですね~」
「たぶん?」
とにかく暫く待つ。
そして、数十秒が経過した。
その時。
僕達が立っていた地面に弱い揺れを感じる。
何か噴水の中から出てこようとする?
次の瞬間。
噴水の中から勢いよく水飛沫と共に――――――僕の腕くらいの大きさの真っ白いクジラが一匹飛び上がり、僕が垂らした魔石をパクっと食べる。
「釣れた~!」
僕が持った釣竿に美しい白色のクジラが垂れ下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます