第14話 水の神様だよ~

 何だか嬉しい夢を見た気がする。


 目が覚めると、いつもの天井――――僕の部屋の天井だった。


 部屋の中に誰かいる音が聞こえている。


「おはようございます。キャンバル様」


 セバスお爺さんの声が聞こえ、カーテンを開く音と共に、眩しい光が部屋の中に降り注いだ。


「おはようございます。セバスお爺さん」


「今日は晴天でございます。ジェラルドが朝のジョギングをとても楽しみにしておりました」


 ちょっぴり目元が赤いけど、元気そうなセバスお爺さんを見れて嬉しい。


「すぐに行きます!」


 急いでベッドから降りると、セバスお爺さんが僕の肩を両手を押してその場に留めさせる。


「キャンバル様。急がば回れという言葉がございます。急いては事を仕損じます」


「はいっ!」


「ゆっくり一歩ずつ確実にいきましょう」


 セバスお爺さんに落ち着かされたので、しっかりと一つ一つ着替えを終えて、外に向かった。


 ジェラルドさんが待っていてくれて、準備運動を終えて、屋敷を数十分走り込み、アレクお兄さんが用意してくれた美味しい朝食を食べて一日を迎えた。




 今日は広場にやってきた。


 相変わらず噴水からは水が勢いよく噴き出している。


「ここはジアリス町が拠点となった一番大きな理由である噴水でございます。元は井戸なのですが、あまりにも水があふれ出るので噴水と呼ばれるようになりました」


「…………えっと、ここの周りって、荒れ地ですよね」


「そうでございます」


「……? 昔、本で読んだのですが、荒れ地って水がないから荒れ地になるのに、どうしてジアリス町の周囲は荒れ地なんですか?」


 雨が降らない砂漠という地方とかは砂で溢れていたり、荒れ地になると読んだことがある。


「本来ならこの周囲は肥沃な土地が広がっていても、なんらおかしくはないのですが、ここから全て消えてしまうのです。その証拠に、向こうの山が見えるでしょうか」


 セバスお爺さんが指さすのは、ジアリス町から東にある大きなはげ山だ。


 本の中では山は緑がいっぱい生えていると書かれていた。


 でもうちの山は全部ハゲている…………。


「ここだけ水の神様の恩恵があるのかも知れません」


「水の神様?」


「はい。世界を司るのは、以前話した魔法の属性ごとの神様が存在します。流水属性を司る水の神様が愛した大地には幸せの水が溢れると言われています」


 水の神様!


 神様がいるなら会ってみたいけど、きっとそう簡単に会えないんだろうな…………。


 そういえば、魔法が使えるようになったんだから、魔法で会いに行けないのかな?


 ちょっと悩み始めていると、何か僕の心の中に光が灯り始めた。


「できるかも!」


「キャンバル様!?」


 僕は真っすぐ噴水の所に走って行って、噴き出している水に両手を入れた。


「――――聖属性魔法、セイクリッドサンクチュアリ!」


 心の中から聞こえる声を口に出して呪文を唱えた。




 ◇




「どこ!?」


 気が付いたら、僕の身体は水の中にいた。


 ええええ!?


 あれ? でも息はできるよ? 水の中では息ができないはずなんだけど…………。


「初めまして~」


 ん?


 後ろから不思議な声が聞こえた気がして、後ろを向いたら――――




「うわああああ!? クジラさん!?」




「あはは~おいらは水の神、アクアサイリアというよ~」


「アクア様?」


「好きなように呼んでくれていいよ~」


 尻尾が見えないくらい大きいクジラさんが目の前にいるとものすごい迫力だ。


「僕を呼んだのはアクア様ですか?」


「そうなのだ~お願いがあって呼んだのだけど、いいかなぁ?」


「いいですよ? どんな事をして欲しいですか?」


「それがさ~お腹が空いて力が出ないのだよ~」


「ええええ!? お腹空いたんですか? それは大変!」


 こんな大きな身体なら、食べ物も沢山必要になりそうだ。


「それでね~君達が噴水と呼んでいる場所に魔石を投げ入れておくれ~」


「あれ? 食べ物って魔石というモノですか?」


「そうだよ~魔力が食べ物になるから~好きなだけ投げ込んでくれね~沢山投げてくれたら周りの土地を広くしてあげるよ~」


「わあ~! 町民達が喜ぶと思います! 嬉しいです!」


「それと、噴水の水もそのまま使ってくれていいから~」


「やっぱりあの水ってアクア様が出してくれていたんですか?」


 セバスお爺さんが水の神様の恩恵かもと言ってくれていたからね。


「そうだよ~あれくらいならいくらでも出せるけど、地下を浸透させるにはお腹が空いていてできないの~だから魔石を食べさせておくれ~」


「分かりました! 帰ったらみんなに相談してみますね!」


「頼んだあ~」


 アクア様の声が段々遠くなっていき、目の前の景色がどんどん変わっていった。




「キャンバル様!?」


「あれ? 帰って来た?」


 セバスお爺さんが僕の身体を隅々まで触り始める。


「セバスお爺さん!? 大丈夫ですよ~アクア様からお願い事をされたんです~。噴水の中に魔石を投げ入れて欲しいんですって」


「アクア様!? 魔石!? 噴水の中!?」


 セバスお爺さんが驚きすぎて、僕達を見守っていた周りの町民達と大声で笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る