第10話 後悔、そしてその先に待っていたモノ
◆ジェラルド◆
領主様であるキャンバル・インハイム様。
辺境伯インハイム家の長男でありながら、横暴な性格から勘当されて辺境の地に追いやられた。
それでもインハイム家の長男である事に変わりはなく、辺境伯様はどうにか良き先導者になって欲しいと、田舎でやり直す事を祈っていた。
それもあり、長年インハイム家で仕えているセバスと俺を護衛という事で、守ってくれと直々に頼まれている。
しかし、辺境伯様の想いは届く事なく、キャンバル様はますます感情のまま怒りをばらまいていた。
そんなとある日。
キャンバル様が高熱で倒れた。
本来ならポーションを使って治すのだが、あのセバスが何もしなかった。
いや、寧ろメイド達や他の使用人の立ち入りすら禁止していた。
セバスの覚悟を知った俺も、彼と共にする覚悟を決めて見て見ぬふりをした。
なのに…………生き残ってしまった。いや、生き返ってしまった。
あの高熱は普通の熱ではない。どういう熱かくらい俺でも分かる。
絶望の淵に立たされた俺達だった。が、そこからキャンバル様は嘘のように変わられた。
自らの布を町民に分け与え、しまいには走り込みを始める。
そして、自分が傷つけた相手にポーションを使いたいとまで提案にセバスも随分と驚いたという。
俺は今のキャンバル様を信じたいと思ってしまった。
セバスと共にキャンバル様を正しい道に導けなかった事――――母上様を亡くして、父上様の多忙により親の愛情なく育ったキャンバル様は、いつしか感情の吐き口を分からなくなり物や人に当たるようになったキャンバル様に、ずっと後悔する人生だった。
だからこそ、今のキャンバル様を信じる。
そして、キャンバル様がしっかり自立した時に、セバスと共に罰を受けようと思う。
母上様の美しい金髪を受け継いだキャンバル様が希望に満ちた瞳で俺が持ってきたモノに視線を送っている。
「キャンバル様。こちらの水晶は魔法使いの魔力の色を調べるモノでございます」
「魔力の色?」
以前のキャンバル様は魔法の才能もなければ、剣術の才能もなかった。
さらに言うなら身体を動かす事を嫌い、肥満体型となっている。
だが、一つだけとんでもない能力を持っていた。母上様譲りの能力を。
それは――――暗記能力だ。
一度読んだ本は決して忘れる事なく、全てのページから内容まで一瞬で覚えていた。
だからこそ、キャンバル様は知識量が人よりもずっと多かったはずだ。
そんなキャンバル様が、魔力の水晶を知らないわけがないのだが、やはりあの高熱により人格が変わったと見るべきか。
「はい。こちらの水晶に魔力を流す事で、魔力の属性を色で表示してくれます。赤色なら火炎属性、水色なら流水属性、緑色なら疾風属性、黄色なら電撃属性、藍色なら氷晶属性、土色なら大地属性があり、これを六大属性といいます」
初めて聞く――――と言わんばかりに目をきらやかせて頷くキャンバル様に、幼い頃、嬉しそうにセバスや俺が話しを聞く小さなキャンバル様が思い浮かんだ。
そういうキャンバル様だったからこそ、俺達はずっと後悔して、あとは死ぬまでキャンバル様が好きなように生きる事を応援するつもりだった。
「次に、白色は聖属性、黒色なら闇属性、翡翠色なら回復属性を表し、これらと特殊三属性といいます」
「おおおお! 全部で9つもあるんですね!」
「はい。そもそも魔法が使えるだけでも凄いことですが、中には複数属性を使う事ができる人もいます。ただし、必ずしも複数属性が使えるから良い訳ではありません。例えば、火炎属性と流水属性を使えるとして、両方を極める必要があるので、片方だけを極めようとした人よりも後れを取る事が多いとされています。ですが、極めた先の可能性は大きいので、複数属性になればなるほど晩成型と言えるでしょう」
と、少し説明が続くと、キャンバル様がポカーンとしていた。
「ごほん。つまり、どちらも良いとこと悪いとこがあります」
それを聞いてニパッと笑う彼は、どちらかというとまだ
自分の名前すら忘れた程だ。きっと記憶が混乱して幼児退行していてもおかしくない。
それならこれをチャンスに、キャンバル様が自立できるよう誠心誠意で対応するのみ。
「さあ、キャンバル様。この水晶の自身の中にある魔素を注いでみてください」
テーブルの上に置いた水晶に手を載せる。
だが何も起きず、沈黙の時間が流れる。
やはり…………キャンバル様に魔法の才能はないのか?
文献には後天的な開花もあるとされているから、もしやと思ったのだが…………。
と、その時。
「キャンバル様。以前魔法使いに聞いた話ですが、目を瞑り、自分の心臓の鼓動を感じる事で自分の魔力を感知できた…………と聞いた事がございます」
見守っていたセバスさんの言葉に、キャンバル様は何一つ迷う事なく目を瞑った。
言われたら何でも試す。
俺が教えた走り方もすぐに真似て、どんどんご自身のモノに消化させていた。
そんなキャンバル様に高鳴る胸を感じたのは久しぶりだった。
セバスさんも何か思う事があったのだろう。共にキャンバル様を見守る。
そして、
水晶からは、
――――【後書き】――――
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