第9話 過去の遺恨
◆一年前◆
「ちっ! ここに石を置いたのはどこのどいつだ!」
村に響くキャンバルの怒る声。
隣に控えていたセバスは真っ青な表情で、キャンバルを宥める事もできず、震えていた。
「セバス!」
「は、はいっ!」
「今すぐここに石を置いた馬鹿を連れてこい!」
「か、かしこまりました!」
村の道に置かれた30センチ程の石。
それはどこにでもあるような石で、大きさも相まってただポツンと置かれているだけで存在感を出す。
そんな石がたまたまキャンバルの
石を見つけたキャンバルは、道に置かれては邪魔だと蹴り飛ばすも、非力なキャンバルに蹴り飛ばす事はできず、そのまま自身の足にダメージを負ってしまったのだ。
急いで道に石を置いた犯人を探し出すと、とある少年である事が発覚した。
キャンバルの命令は絶対。
このまま少年を連れて行ったらどうなるかくらいセバスも知っていた。
だがインハイム家に仕えるセバスに主の命令は絶対なので、自分の私情を挟む事などできず悔し気に拳を握った。
その時、少年の父が自分が置いたと名乗り出る事で、何とか少年は被害を受けずに済んだ。
しかし、その結果はあまりにも残酷で、父親を見るや否や殴ったり蹴ったりして、最後は落ちていた石を彼の足に叩きつけたのである。
それから半年後。
足に大怪我を負った少年の父は働く事もできず、一家の税金を払う事すら難しくなった。
セバスはその事情をキャンバルに伝えると、「それならポーションでも教会にでも行かせればいいじゃねぇか」と冷たくあしらわれた。
ポーションは絶大な効果を持つが、作れる錬金術師はそう多くなく、回復魔法が使える人は大体が教会に属していて、どちらも多額の料金がかかる。
税金すら払える金がない彼らにあまりにも酷な現状で会った。
セバスは自分の給金の中から、彼らの税金をこっそり払って納税から逃れた。
けれど、それは一時的な焼け石に水にしかならず、いずれ彼らが町から追い出されるのもそう遠くないはずだ。
辺境伯の息子の町から追い出されたら、彼らに行く場所はない。
北の隣国に逃げたら間違いなく奴隷となって、もっとひどい目に遭うだけだ。
そんな現状をセバスはずっと悔しそうに思い悩んでいた。
◆現在◆
僕は悩んでいる。
セバスお爺さんから聞かされたバロンくんのお父さんが足をケガした理由。
もしかしてと思ったけど、やっぱりキャンバルさんのせいだったみたい。
でもキャンバルさんって今の僕だよね? そう考えたら僕がやった事になる。
はぁ…………自分から石を蹴ってケガして勝手に怒るって、キャンバルさんって本当に不思議な人だ。
それを悩んでも仕方がないので、これからの事を考える。
セバスお爺さんに相談した時、「ポーションを与えることはできません。これは旦那様(僕のお父さん)からキャンバル様のためにと預かっているモノです」ときっぱり言われてしまった。
つまり、セバスお爺さんが持っているポーションは僕の物ではなくて、僕のお父さんの物だから、僕が自由に使う権利はないみたい。
となると、次は回復魔法というモノなんだけど、この町で魔法が使える人は一人もいない。
ジェラルドに魔法について聞いてみたんだけど、世界でも魔法が使えるのは多くなくて、町でも使える人が数人くらいしかいないそうだ。
それに魔法が使えるだけで国ではとてもよい待遇で雇ってくれるらしくて、そういう仕事に就く人が多いみたい。
中でも回復魔法ともなると、教会という組織が最も力を入れていて、回復魔法使いは殆ど教会で働くみたい。
屋敷の二階にあるテラスで町を眺めていると、ジェラルドさんがやってきた。
「キャンバル様」
「ジェラルドさん?」
「俺が聞いている話では、キャンバル様に魔法の才能はないと聞いています」
ジェラルドさんと一緒に来てくれたセバスお爺さんも頷いている。
僕に記憶はないけど、どうやらキャンバルさんに魔法の才能はなかったみたい。
「ただ、稀に後天的に発現する人もいるそうです。もしよろしければ、試されますか?」
「えっと、どうしてですか?」
「キャンバル様がバロンくんのお父さんの足の件で心を痛めていると聞きました。僭越ながら、ケガをさせたのがキャンバル様なはずなのに、それに心を痛めるのが不思議に思えます」
ギクッ!
で、でもやったのは僕じゃないというか、僕と言えば僕なんだけど…………う~ん。
「ポーションを彼に使いたい――――俺はその言葉を信じます」
「?」
「キャンバル様はポーション一つがどれくらいの値段なのかご存知でしょうか?」
「う~ん。ごめんなさい。全く分かりません……」
向こうでは人を治す時に薬が使われている。
かく言う僕もずっと病院で薬を飲んでいた。
母さん曰く、薬はとても安くてそれで多くの人達が助かっていると言っていた。
それを考えれば、ご飯分くらいかな?
「ポーション一つで、この町の住民達が一年間食べて暮らせます」
ジェラルドさんの言葉に、僕はあまりに驚いて、その場に立てなくなった。
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