第3話 美味しい時は美味しいと言います
くふふふ。映画で見たもんね~。美味しい料理を作ってくれた料理長を呼んで、めちゃ褒めると喜ばれるのを!
それにしても、どの料理もしょっぱくて大変だった…………でもこんなに腹いっぱい食べられたのは初めてだから、凄く嬉しい。
だからちゃんと料理長さんに感謝を言わないとね。
扉からノックの音が聞こえて、赤い髪の若いお兄さんが一人入って来た。
「お、お呼びでしょうか。キャンバル様」
「お兄さんがこの料理を作ったの?」
「お、お兄さん!?」
凄く驚いたお兄さんは、視線をテーブルに移すと、さらに驚いた。
「きゃ、キャンバル様!? こちらにあったお料理は!?」
「ごほん。料理長」
「は、はいっ!」
「――――――
ものすごく美味しかったですよ~でもね~ちょっとだけしょっぱかったかな? だから今後はもうちょっと普通に作って欲しいというか~あ~! ち、違います! 美味しくなかったわけじゃなくて! え~お兄さん? そんなに泣くことなの? 本当に美味しかったよ? ただちょっとしょっぱいかな~くらいで」
美味しくないと聞こえてしまったのか、お兄さんの両目から大粒の涙がぽろぽろと流れ始めた。
その場に両膝をついて、声を殺して泣き始めた。
「あ、あの~ほ、本当に美味し――――」
「キャンバル様!」
「は、はい!?」
「お、俺はアレクと言います!」
「アレクお兄さん?」
「今度からは俺の全力の料理を召し上がって頂けるのですね!?」
「へ? また作ってくれるの?」
「っ! も、もちろんです! キャンバル様がまた作ってくれと仰るのでしたら、このアレク。全力でお料理を作らせていただきます!」
「わあ~! 凄く楽しみ!」
「っ!!!」
「あれ? また泣いちゃった…………」
あれかな? ここの人達はすぐに泣いちゃう人達かな? なんか外国にそういう国があるって読んだことがある。
きっとそういう国かも知れない。少なくとも、ここは日本ではないみたいだし。
「アレクお兄さん~」
「は、はいっ!」
「それと、ちょっと量が多くて…………もっと減らしてくれると嬉しいな~なんて」
決して美味しくないから食べたくないわけじゃない。本当に量が多すぎるんだ。
お爺さんにここから3倍くらい運ばれてくると聞いて、急いでこれでいいと言ったら大急ぎで厨房に駆けつけてくれた。
その時、ついでに料理長も呼んでくれと頼んでいたりする。
「ど、どのくらい減らせばいいのでしょうか?」
「えっと~これの半…………5分の1くらい…………」
「っ!?」
「あ~! 決して美味しくないから食べたくないんじゃないですよ!? 本当に多すぎるから!」
「…………かしこまりましたっ! このアレク。その
「うん! 楽しみにしてますね!」
「っっっ……………………はいっ」
本当に泣き虫なお兄さんだね。
◆厨房◆
厨房に帰ってきたアレクを使用人達が迎え入れる。
「あ、アレク! どうなったのだい!?」
「…………ありえない」
「っ! や、やっぱり…………また癇癪を…………」
「本当にありえないんだ」
「アレクの料理は本当に美味しいというのに……キャンバル様はいつも不味いと…………」
「それが…………初めて美味しいと仰ってくださったんだ」
「うんうん。不味――――――え?」
「メリッサさん。俺の料理って美味しいか?」
「!? も、もちろんよ! 私が知っている料理人の中で一番よ?」
「…………そうか。俺の料理は間違いなかったんだな。やっとキャンバル様に届いてくれたんだ。今日はなんて嬉しい日なんだ」
「本当かい!?」
「ああ。これからキャンバル様を唸らせる美味いもんを作ってみせるぜ! それと量を減らしてくれと頼まれた」
「「「「ええええ!?」」」」
「信じられないだろう!? いつも一口しか食べないキャンバル様が、出した料理も全て平らげておられたよ」
「「「「ええええ!?」」」」
アレクの言葉を到底信じられない使用人たちだったが、全て食べ終えた皿を見た使用人たちはキャンバルの異変に気付き始めた。
その中でも、長年隣で支えていたセバスは、現状を受け入れ切れずにいた。
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