第4話 異世界生活開始

 チューンチューン。


 外から可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 ん~そういえば、僕ってキャンバルさんの身体になったんだっけ。


 昨日は執事のお爺さんから僕の名前はスズキセイヤではなくて、キャンバルだと何度も注意された。


 それならそれで仕方がないと思う。


 だって、僕の身体は病気を患っていたから好きなように動けなかったけど、今の僕は自由に動かせる。


 ただ、身体は重い。でも病気の身体よりは軽いという不思議な感覚だ。


 今日は早速外に出掛けてみる事にした。


「キャンバル様!?」


「ほえ?」


「ど、ど、どちらに行かれるのございますか?」


「散歩に行こうかなと思ってます~」


「!? ご、ご一緒致します」


 絵本でしか見た事がないメイド服を着た可愛いお姉さんが一緒に来てくれるみたい。


 執事お爺さん曰く、キャンバル今の僕さんは凄いお金持ちの息子で、この町の偉い人だそうだ。


 メイドさんに案内されて、靴が大量に置かれている倉庫から好きな靴を選んで履いた。


 いつもスリッパを履いていたから、こういう靴を履くのも夢だった! そして、履き心地は想像よりもとても歩きやすかった。




 ◇




「りょ、領主様よ!」


 屋敷からゆっくり歩いて、階段を下りたところで、ボロボロの服を着た人達が道の脇で土下座をし始めた。


「あれ? みなさん何で土下座をするんですか?」


 僕の質問に少し困った表情を見せるメイドさん。


 不思議そうに見ていると、「キャンバル様からたれないようにしております…………」と話した。


「ええええ!? ぼ、僕は打たないよ!? そもそも何で打つの?」


「み、道を塞ぐなと…………」


「…………」


 キャンバルさんってあれかな。本で読んだ――――――いじめっ子のあれかな。


 なんか学校で同級生をいじめるいじめっ子なるモノがあるらしい。


 道を歩いていてわざとぶつかって、凄く怒っていちゃもんを付けると書いてあった。


 そもそもいちゃもんって何だろう。


 いちゃもんってきっと――――――


「ひ、ひい!?」


 道の脇で土下座していた女の子にわざとぶつかってみた。


 女の子もメイドさんも、周りの人達も凄い形相に変わっていく。


「あ~ぶつかった!」


「お、お許しを……も、も、申し訳ありませんでした!」


 うんうん。本で読んだ通りにちゃんと謝ってきた。


 今度はこちらの番だ! いちゃもんを付けてやる!




「いま僕にぶつかったよね! さあ! そのボロボロの服を直しにいくよ!」




「…………?」


「えっと、メイドさん?」


「は、はい! み、ミアと申します!」


「ミアさん。この子は僕にぶつかりました」


「は、はい…………」


「なのでこの子の服を直してあげなさい!」


「…………?」


「?」


 ミアさんとお互いに何度も見つめ合う。


 あれ? いちゃもんをつけるのを急ぎすぎた?


 えっと、もう一回ぶつからないと駄目なのかな?


 もう一回女の子にわざとぶつかる。


「ほら、ぶつかりました」


「そ、そうです……ね」


「さあ、服を直してあげましょう!」


「「「「どういう事だよ!」」」」


 周りの人達から一斉に声が上がる。


「え~だって、ぶつかったらいちゃもんをつけるのがいじめっ子のやる事なんですよね?」


「い、いじめっ子? いちゃもん?」


 あれ? 本で読んだのと違ったのかな?


「ほら、この子の服。女の子なのにこんなにボロボロなのはおかしいじゃないですか。屋敷に布がいっぱいあったんですから、それで直してあげましょうよ」


「「「「ええええ!?」」」」


「ダメ?」


「い、いいえ! きゃ、キャンバル様? 本当によろしいのですか?」


「え? あれ? もっとぶつからないと駄目ですか?」


 もう一回わざとぶつかる。


「それはもういいですから!」


「あ、もういいんだ」


「ど、どういう……ことなの? あのキャンバル様が…………平民の服を直すなんて…………」


 ミアさんが小さい声で何かを呟いたけど、全く聞こえない。


 それにしても服がボロボロな人が多い。


 というか殆どの人達の服がボロボロだ。


 よく見たらミアさんの服も大きな布地で直した跡がみえる。


 絵本でいじめられている人はこういう服を着ていたのを覚えている。


 よし、ミアさんにもいちゃもんをつけよう。


「なっ!? きゃ、キャンバル様!?」


「はいっ! ミアさんもぶつかりましたね?」


「へ?」


「これでミアさんの服も直しましょう! いちゃもんをつけます!」


「「「「そんないちゃもんがあるかああああああ」」」」


 周りの人達の声が村に木霊した。

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