第2話 初めての料理
僕、どうやら違う世界に生まれたみたい。
というか、キャンバルって名前らしいんだけど、キャンバルさんの頃の記憶は何一つないんだよね~。
僕の中にあるのは、鈴木誠也の記憶だけで、今でもあの病院の景色は忘れられない。
できれば母さんと一緒に公園に遊びに行きたかったけど、どうやら僕の母さんもキャンバルさんの母さんもこの世界にはいないみたい。
というのも、この世界は僕が住んでいた日本じゃないみたいなんだ。
外を見ると電線一本見当たらないし、みんなが着ている服装も日本っぽくないし、どちらかというと絵本に出て来るような、ファンタジー世界の服装だ。
それと僕――――というかキャンバルさんはお偉いさんの息子さんらしくて、この町の領主(?)というみたい。
領主様はとても偉い人なので、僕は凄く偉い人だって!
ということで、初めてのご飯の時間になったので、お爺さんに言われた場所で座って待っている。
ものすご~く長いテーブルの端に一人だけ座っていて、目の前にただただ続いているテーブルが気になって仕方がない。
それをお爺さんが常に僕の隣に立っているのも気になる。
「お爺さん」
「はっ。セバスとお呼びくださいませ。キャンバル様」
「えっと~セバスさん?」
「っ!? きゃ、キャンバル様! 我々に敬語は不要でございます。恐れ多すぎます」
「う~ん?」
「い、いつも通り呼んでくださいませ」
「いつも通り? う~ん。でも母さんが年上にはちゃんと敬語を使いなさいって言ってたからな…………」
「っ!? キャンバル様…………」
なぜかハンカチを取り出して涙を流し始めたお爺さん。
本には歳を取ると涙もろくなると書いてあったけど、本当の事みたい。
少し待っていると、おばさん達が美味しそうな食事を次々持ってきてくれる。
病院食とは全然違い、たまに食べられるイタリアンと呼ばれていた食事に似ている。
「ええええ!? また出て来るの!?」
「は、はい。キャンバル様の指示によって、毎日30品を出しております……」
「30…………」
30って…………キャンバルさんってこんなにいっぱい食べるからデブになるんじゃないのかな。
とりあえず、すごくお腹が空いたので、目の前のイタリアンを食べてみる。
「っっっ!?」
「キャンバル様!?」
あまりの――――――しょっぱさに吐き出してしまった。
「キャンバル様! も、申し訳ございません! 味に不満がございましたでしょうか?」
「お爺さん……こんなしょっぱいのは食べられないよ…………」
「!? こ、これも全てキャンバル様のご指示通りの味付けなのですが…………」
「え~やだ! もうちょっと普通のが食べたいよ!」
「か、かしこまりました。ではすぐに取り下げます」
「…………お爺さん。それってどうするんですか?」
「こちらでございますか? 全て――――廃棄致します」
「…………いいです! そのまま残してください!」
「!?」
母さんが常日頃、ご飯は作ってくれた人の事を考えながら食べなさいと言っていた。
本で読んだんだけど、ご飯を作るのってものすごく大変な事みたい。だから作ってくれた人に感謝しながら食べるそうだ。
しょっぱすぎるのはキャンバルさんの好みだったのかも知れない。
せっかく作ってくれたのに全部廃棄したら…………。
僕は目の前のしょっぱすぎる食事を全力で食べ始めた。
◆厨房◆
「アレク!」
「セバス様。どうかしましたか?」
「料理は全て中止だ!」
「なっ! お、俺の料理にまた
「そ、それがだな…………今すぐキャンバル様から料理人を連れてくるように言われてしまってな…………」
「ち、ちくしょ! いつもいつも……俺のまともな料理を食べないくせい……不満ばかり言いやがって…………みんなの食材をこんなに
「そ、それがだな。アレク」
「なんで生き返ったんだよ……そのまま…………」
「アレク! 滅多な事を言うもんじゃありません!」
泣き言をいう料理長アレクに、やせ細ったメイドが大声をあげた。
「メリッサさん! でもよ!」
「キャンバル様が生き残ったのはきっと女神様のご意思…………私達はただそれを受け入れなければならないよ」
「…………分かったよ。メリッサさんがそこまで言うなら…………でも今日で俺はクビになるかもな。とりあえず行ってくるよ」
エプロンをテーブルの上に乱暴に脱ぎ捨てたアレクは、
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