第25話 痛みを超えろ
「転移による痛みは名状しがたいものでね。私の場合、記憶から消し去ってしまったんだ。おそらく物心がつく前だったのもあったのだろう。ただし、その痛みを経験することで空を飛べる。要するに、あなたたちが地を超えたときに体験したものの中から痛みだけ処理を後回しにしたんだ」
「なるほど。この映画のワンシーンのように、はっきりと記憶に残っている感覚は、それが原因なのね」
レーデと涼子のやりとりは全くわからないけど、よくわかる。前の席を陣取りながら、俺はただうなっていた。
「ツケは好きではないのですが、いつから返せますか?」
可憐な声を響かせるのは谷口だ。
「後回しってことは処理されるときが必ずくるってことだもんな。確かに気になるところだ。あと俺もツケは嫌いだ」
そう言って氷上が俺の後ろに座る。このあとから来て、みんなの言ってることを並べるだけのやつって、まじで要らんよな。そう嘆きながら涼子を見たら、冷えた目で氷上を見ていた。うん、氷上、どんまい。
「今日、寝る時から処理は開始される。内容も期間も人それぞれ。そもそも」
レーデは、そこで一旦、切ると、白くて長い指を1本立てた。
「生きて目を覚ますか、死んで永遠の眠りにつくかも、人それぞれなんだ」
指をふりふりさせながら、にこやかに告げるレーデ。そうか、この人にはハナからラクに異世界転移をさせるつもりはないんだ。
「んじゃ、寝るわ」
あほくさ、目を覚ましてから聞かないと意味ないじゃん。
「直人、あなた」
座ったまま、さっさと寝に入る俺の視界がこちらを見て目を丸くする涼子の姿を収めた。
「まるですべてがわかっていたような適応っぷりよ」
美しい声が心地よく耳を叩いて、すぐに俺の意識は落ちていった。
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