第22話 自分の届くところまでは

「枝松さんは、どうしてあの世界へ行くと決めたんですか?」


 アールグレイを飲みながら、谷口は尋ねた。


「放っておけない方がいましてね」


 そう話す枝松さんは、戦闘で見せた姿が想像できない穏やかさだった。


「山崎さんは行かないんですよね?」


「ははっ、放っておけない方は想い人ではありません」


 山崎さんは想い人なんだ。


「私と枝松さん、一ノ瀬さん、冴島さん、進藤さん、氷上さん」


 あの世界に行く人たちを指折りながら、放っておけない方を推理する。

付き合いの長そうな冴島さんかな?


「谷口さんは、どうして行かれるのですか?」


 お穏やかな口調で返される。すぐに一ノ瀬さんの顔が浮かんで、それからレーデさんとロギアさんが浮かんだ。


「実は私、小説家なんです」


「先生でしたか」


「自称ですけどね。まだ出版もされていませんし」


 2杯目には、普段は飲まないコーヒーを頼んだ。シナモンでかき混ぜながら、ゆっくりとのどを通していった。甘い匂いが鼻を抜けて、ほのかな苦味が胸へと落ちていった。


「今回のことを物語にしたいわけではないんです。関わりのない方に話すこともありません。ただ」


「ただ?」


「自分の届くところまでは知りたいって、そう思ったんです」


 やはりコーヒーは好きにはならないな、と感じながら谷口は告げた。


「そうでしたか」


 クッキーを「サービスです」と枝松は出してくれた。可能ならば、あちらの世界でも枝松の紅茶と菓子をいただきたいな、そう思った。

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