第6話 第一印象最悪な男
「ふん、お前が、古臭い田舎の王国の姫か。辛気臭い娘だな」
マルコ様……いやもう敬称もいらないよ。マルコ=アルマニオは第一印象から最悪だった。
あまりに失礼な言動に、私も含めて一同絶句。シリウス様の顔はますます真っ白に笑顔が張り付いた。細めた目に殺気が宿るのが私にもわかった。
「はい、コルテッサ=マルグリッドと申します。以後、よろしくお願いいたします……」
なんとか平静に務めてそれだけ絞り出したが、最後まで言い切らないうちにマルコが言い放った。
「勘違いしてもらっては困るが――。私はお前をお飾りの妻としか思っていない。そもそもこの縁談は母が勝手に取り付けただけの話だ。私は一切関与していない。したがってお前を愛することはこれから一生無いと知れ」
はぁ――
……えぇ、えぇ。どうせ、そんなことだろうと思いましたよ。
要するにこのド失礼な男も私と同じだ。親のいう通り結婚しろと言われただけという事。 それについて、憤って、乗り気がしないのはわかる。私もそうだから。
でも、だからってこの態度はどうなの。
遠路はるばるやってきた私たちに嫌がらせと罵声を浴びせる?
人として、貴族として、無礼が過ぎるのよ。
「そんなに乗り気でないのならば、この婚約、なかった事にしてもよろしいのですよ?」
なので私も言ってやった。
一見、大人しく見えるかもしれないけど、私だって
「察するに、マルコ様はわたくしのことがお嫌いな様子。そんなものをお飾りとはいえ、傍に置くのも苦痛でしょうに。その様子では、愛人の一人や二人囲っておいでなのでしょう? それらの方とちちくりあって、お世継ぎでもなんでも作られたら良いのではありませんか?」
「なんだとっ!?」
私からの思いがけない反抗にマルコが気色ばむ。
「そもそも、その恰好はいかがなものですか!? なぜ平服なんです? なぜ、そのような崩れた姿なのです。わたくしはマルグリッドの公式な使者ですよ。国家間の礼儀も弁えない不調法ものが、大きな口をたたかないでくださいませ!」
私の恰好は黒と赤を基調とした、シルクのドレスだ。レースを添えて上品に仕立ててあるとっておきの一品だった。このあたりはリリアが完璧に調整してくれるので、安心して任せている。
一方この男ときたら、ヨレヨレのシャツに、申し訳程度にジャケットを羽織った姿。よくよく嗅いで見ると、どことなくお酒の匂いもする。おおかた朝まで飲んだくれていたのでしょう。
さらにいうと、ちょっと小太りだし、脂ぎっているし、顔もちっとも上品ではない。
隣にいるシリウス様の麗しい横顔を比較したら月とダンゴムシ。いや、ダンゴムシにも失礼ね。乾燥した鳥のフン。いえ、鳥のフンは肥料になるものね、それ以下だわ!
「貴様、よくも、よくも……」
私の一気呵成の罵倒に、マルコは顔を真っ赤にしている。なんて暑苦しいんでしょう。これではご婦人にもモテませんわね。
お互い、さぁ、次はどうしてやろうか、という目でにらみ合っている所で
「女大公殿下のおなーりー」
と従者が大声を上げた。こうなってくると、敵の親玉は誰か、私にもわかる。
クランベルグ公国は、早くに老クランベルグ公が亡くなり、その娘が女公爵として治める国だ。したがって、この国の主というのは、この失礼な男の母親、つまりエリザベス女公その人だ。
「田舎ものの娘というのは、心根まで野蛮人なようですね。こんな大声を上げて、みっともないとは思わないのかしら」
豪奢なドレスに身をつつみ、しずしずと出てきたのは、とても化粧の濃い中年女性だった。へぇ、この人が、この男の母親なのね。なんて意地悪そうな顔なのかしら。
「ママ! やっと来てくれた! こいつ酷いんだ!」
――――ママ!?
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