ちゃぶ台のあるところ
手元が見え辛いと思ったら、日暮れだった。
壁のスイッチを押すために立ち上がったら、足元がふらついた。それに、ともかく体が重かった。
体重計を持っていないし、きちんとした服に着替えていないのでわからないが、相当太ってしまった自覚がある。
一日一食ということが大半なのに、どうして痩せないんだろうか。
不思議に思いながらも、ともかく栄養は取らないと駄目だろうと、夕飯のメニューを考え始める。
スマートフォンの複数のアプリを開いては閉じ、少しでも得になるクーポンとキャンペーンを確認してから、食べたいものを絞ってゆく。
ラーメン、つけ麺、カレー。そこら辺が大変魅力的に見えるが、ともかくタンパク質を摂取しなければと自分に言い聞かせる。
手っ取り早くタンパク質を摂取するには肉。なるべくなら揚げていない肉を選ぼう。
となると、唐揚げとトンカツは選択肢から外れる。ステーキは予算オーバー。
迷っているうちに、時計はほぼ二時間後を示していた。信じられない。強制的にダンジョンに放り込まれるようになってから、現実の時間も狂ってきたのだろう。
【ワタクシを貶めようとしましたね】
いや待て。待て待て!
【では。もぐもぐごっくん】
※※※※※
俺は古びた家に放り込まれていた。
いわゆる古民家ってやつか。激安で購入してDIYする動画をたらたら見ていた時期があるが、まさしくあんな感じだ。
ここは国民的アニメでお馴染みのお茶の間ってやつか。丸くて低いテーブルは、ちゃぶ台っていうんだよな。
壁際の小さな収納家具からは、よくせんべいやあんパンが出てくるものだ。
スライド式の扉に手をかけてみたけれど、なぜか生首が鎮座しているイメージが浮かんだので止めておいた。
そう言えば、劣化具合は心霊スポット系動画に出てきそうでもある。
ホラー好きでもないのに、ただ考えなしに動画を垂れ流していた過去の自分を猛烈に責めたい。
「ねえ」
近くで子どもの声がして、情けなくも「うおおっ!」と叫んでしまった。
すぐ後ろに、黄色いワンピースを着た5歳くらいの女の子が立っていた。
「こわいかお、してるよ」
「えっ」
俺は自分の顔を両手ではさんだ。
「ダンジョンって、たのしいものでしょ? たいへんでも、ほしいものがもらえるのがうれしかったりして」
「楽しい? 嬉しい?」
「どうして、そんなこわいかおするの?」
ふと、ゲームが楽しくて、怒られるまでやりまくっていた日々を思い出した。
ある頃からゲームが色を失い、オンラインゲームのデイリーボーナスを貰うためだけにログインし、それさえも苦痛になってしまっていた。
どうしてだろう?
ゲームを楽しむ人たちは、間違いなく存在しているのに。
「まいにち、なんかいも、ダンジョンにもぐってて、たのしくないとか、ずるいよ? すっごい、ぜいたくだよ?」
贅沢か。
「まいにちプリンたべるくらい、ぜいたくだよ?」
幼女に諭されて、俺はしゅんとした。
そのとたん、下から突き上げるような揺れが起こって、俺だけがまた大声で叫んでいた。
「ほら、ダンジョンにペッてされるよ」
俺の視線の先でペッと吐き捨てる仕草をしたのは女の子で、そのことが胸にキリキリと刺さった。
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