目覚めその2

 眠ったつもりもなかったのに、まぶたを開けたら昼を過ぎていた。

 吐き気は消えていたし、どうやらめまいもしないようだ。

 のそのそと起き上がって冷蔵庫をあさるが、ろくな食べ物がない。


【顔を洗って服を着替えて買い物に行きましょう】


 トイレの後に手を洗うついでに、顔を洗った。

 キャラクターTシャツを脱いで、さて何を着ようかと考える。

 そもそも外の気温が分からない。ネットで調べてから改めて手持ちの服を眺める。決められない。

 上半身裸のまま、もう一度冷蔵庫を開けて閉め、流し台の下の扉を開く。カップ麺が1つある。

 電気ケトルをセットしてから、蓋を剥がす。湯を注ぐ。


 【買い物に出かけられませんでしたね。では。もぐもぐごっくん】


 ちょっと待て! せめて食べ終えてからにしてくれよ!


     ※※※※※


 青空に、島のように雲が散らばっている。

 上空の白い橋に、俺は立っていた。


 いや、これは横断歩道では?


 横断歩道の白いところを残して、アスファルトが全部崩れ落ちる幻。踏み外したら地上に真っ逆さまだ。

 高所恐怖症である俺は、足が震えるのを止めることができない。

 ありえないほど長く、終点が見えない横断歩道もどきの上で、俺は一歩目を踏み出せずにいた。

 

 それくらいそうしていただろう。

 

 背後から、賑やかな子どもたちの声とバタバタした足音が近づいてきた。そろりと振り返ると、黄色い帽子の小学生たちが6、7人走ってきた。

 横断歩道もどきが揺れるわけではないが、俺は思わず足を踏ん張って全身に力を入れた。

 子どもたちは何も怖いものはないかのように、軽々と白い線を踏んで走って行く。

 その中の一人のランドセルが、かすめるように俺に当たった。

「うおおおお」と甲高い叫び声を上げたのは、それを背負った男の子。片足立ちでくるりと体をひねり、華麗にジャンプして白線の上に留まる。

「やるなあ、おまえ!」「楽勝楽勝」などと楽しそうな笑い声が上がる。

 彼らの声を聞きながら、俺はものすごくゆっくりした体感速度で宙に投げ出された。

「あー、だれか落ちた?」「知らねえー」というやり取りが聞こえた気がする。

 あの子どもたちは、いつでも横断歩道もどきのあちら側からやって来るが、楽しそうなのは学校から家に帰る方向だからなのか、その逆なのか。

 白い線だけを踏んで歩く、走ることが楽しくてたまらないだけなのか。

 俺は、そのたどり着くところを知らない。

 

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