閑話 リリサ・アンブレラからの手紙(1)
拝啓、親愛なるエドガー先輩へ。
お元気ですか? 私は何とかやっています。
先輩がいなくなってもう一週間になります。ユルシカは王都からひどく遠くて、郵便も週に一回しか届かないと聞きました。
この手紙が届くのは、もっと何日も後のことでしょうか。そちらの生活には慣れましたか? 水が変わると体調を崩しやすいので、気を付けてくださいね。
さて、先輩が最後まで気にしてくださっていたミラージュの件。
結論からいうと、公開飛行試験は大成功でした。先輩が準備してくださっていた資料が的確で、ミラージュの革新的兵装理論が
議会での追加予算も無事通ったと聞きますし、参謀本部が特に絶賛してくださり、新戦略の要であると太鼓判を押してくださいました。
さっそく量産体制に入るらしく、その準備で私たちも大忙しです。
でも先輩、私は悔しいです。
ミラージュは確かに素晴らしいです。でもその功績は、ラトクリフ局長とベンメル開発主任がすべて持っていってしまいました。
局長はエドガー先輩なんか最初から居なかった事にしたんです。今、中央国防省ではベンメル・リベリア少佐の名前は天才的技術者として噂になっています。そこは、本当なら先輩の名前だったのに!
それから、心配事がもう一つ。コスト面での改善要望が出されました。
構造材の変更です。もっと安い物を使えと……。ミラージュはギリギリのバランスで成り立たせているから、危険だと訴えましたが、ベンメル開発主任は私たちの言葉を聞いてはくれませんでした。
そのあとに、ロクにテストせずに量産するというんです。あの人は素人なのでしょうか? 私たちはあきれて何もいえなくなりました。
先輩、私は不安です。何かとんでもないことになってしまうのではないかと……
チームのミッチェルと、ガストンは量産体制がととのったら、軍を辞めると言っています。局長は上機嫌ですが、何かあれば、私達の責任になるのは明白です。
最初のお手紙なのに、弱音ばかりでごめんなさい。リリサは先輩が恋しいです。早くこちらに戻ってきてくださる事を祈っています。
またお手紙を出します。先輩もお元気で……
あなたの部下 リリサ・アンブレラ
※この手紙は、王立中央工廠研究局から、ユルシカ第五十三基地宛に郵送予定であったが、郵便事故にあい、郵送局の倉庫に保管されていたものだ。本書は複製であり、原本は六カ月遅れで、ユルシカ基地へ届けられた。
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