100.自由に楽しむお買い物
伯爵家以上は必ず領地を持つが、子爵男爵はそうとも限らない。文官や騎士の功績で成り上がった貴族ならば、代々の忠誠と奉職で地位を維持することも多かった。
ニエト子爵もこれに該当し、文官としての仕事で功績を残した一族だ。そのため領地替えの心配もなく、カルレオン帝国の庇護を受けた。年老いた両親や弟夫妻も一緒に引っ越したことで、一族全体が守られている。その説明に安心した。
カルレオン帝国子爵の地位を得て、アルムニア公国の文官になる。才能を見出して取り立てるお祖父様の采配なので、他の貴族も「またか」と思った程度らしい。裏の事情は誰も知らない。
「ではオスカル様のお仕事を手伝ってくださるんですね」
「はい、頑張っております」
文字や言葉の壁がないので、モンテシーノス王国との違いだけ急いで覚えている最中だとか。勉強家の子爵を、奥様はしっかりと支えている様子。可愛いご令嬢が、ふわっと大きな欠伸をした。
目が覚めたようね。微笑ましい気持ちで見つめた。お茶が冷えてくる頃、お茶会はお開きとなった。後日改めて招待し、大公家の屋敷で話をする約束を取り付ける。店を出たところで別れ、私達は当初の予定通りに筆記具を購入しに向かった。
「このお店なの」
「まぁ、おしゃれなお店ね」
リリアナに手を引かれて、野薔薇が飾られたゲートをくぐる。店の前が小さな庭になっていた。横に細長い庭は、玄関の位置に金属製のゲートがある。そのゲートに指先ほどの小さな白い野薔薇が絡まっていた。
店内は明るく、天窓から光を取り込んでいる。中央の棚に飾られたガラスペンが、きらきらと光を弾いた。いくつか購入しようかしら。インクは強い光を避けた右側の棚に、紙類は左側の棚に並んでいる。
はしゃぐリリアナと手を繋いだまま、右へ左へ商品を選んで歩いた。オスカル様はくすくす笑いながら、店の奥に据え付けのベンチに腰掛ける。モンテシーノス王国では見かけないが、カルレオン帝国やアルムニア公国の店は、中にベンチや椅子が置かれていた。客が自由に使える椅子は、とても便利で自由な感じがする。
「お義父様は何色が好き?」
ガラスペンの前で足を止めたリリアナの質問に、オスカル様は少し考えて「黄色かオレンジ」と答える。今度は私を振り返ったリリアナが同じ質問をした。
「黒……紫、どちらも好きよ」
「ふーん。お義父様はお義母様の色で、お義母様はお義父様の色なのね」
すぐバレることだけど、指摘されると頬が赤くなる。恥ずかしいわ。じっくり眺めた後、リリアナは踏み台を使ってガラスペンを選んだ。柔らかな琥珀色と濃紫色の二本、そして自分用にピンク。一度踏み台を降りて、選んだ品を私に渡す。それからまた選び始めた。
「えっと……大公のお義祖父様、お義祖母様とお義祖父様、エル、宮殿用のお土産も同じでいいかしら」
どうやら皇帝陛下であるお祖父様達も計算に入れるか、迷っている様子。そこで私が提案した。
「エルはまだ早いし、宮殿へはお菓子にしましょう。皆でお茶の時間を楽しめるでしょう? 茶葉を一緒に選んでも素敵ね」
形のあるプレゼントもいいけれど、一緒に食べる思い出も素敵よ。そう告げれば、リリアナは嬉しそうに頷いた。
私達3人の分に加え、アルムニア大公閣下と私の両親まで購入する。インクも合わせていくつか選んだら、あっという間に時間が過ぎていった。
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