92.婚約を飛ばして結婚式の準備
私の婚約が公表されて数日すると、お祝いの品が届き始めた。すべてお母様が開封し、お父様がお返事を出していく。私は別の仕事があった。
「お嬢様、腕をあげてください。もう大丈夫です。ありがとうございました」
「他は平気そう?」
「靴のサイズと形だけ、もう一度測定しておきましょう」
侍女や仕立て屋さんの指示でくるくると周り、腕を上げたり下ろしたり。柔らかな粘土で靴の型を作った。婚礼衣装は白に水色と銀の刺繍を入れるらしい。重くなるので膨らますのを諦め、形をエンパイアラインに決めた。
胸の下からすとんと落ちる形なので、ウエストをキツく絞る下着は使わない。何枚も重ねるスカートは薄絹をふんだんに使い、歩くとふわふわ揺れるよう調整すると聞いた。
「お義母様には銀が似合うわ」
「そうね、リリアナの髪色ですもの」
邪魔になる金髪を結い上げた私は、微笑んで娘に言葉を向ける。喜ばせようと考えるより前に、銀といえばリリアナの髪が浮かんだ。自然と口を衝く言葉に、彼女は嬉しそうに頬を染める。
「宝石はどちらにしますか」
「青色がいいわ。濃いめの色にして頂戴」
宝石の値段や種類はこだわらない。けれど、色だけは譲れなかった。美しく透き通った青がいいの。水色と銀の刺繍にも似合うと思う。そう伝えたら、複数の宝石箱が運ばれてきた。
大量の宝石からいくつか選んで、リリアナと覗き込む。レース編みのように金の鎖が連なる首飾りは、小粒の宝石が散りばめられていた。胸に当ててみると、柔らかなグラデーションが美しい。青を中心に、ピンクの宝石や黄金の花細工が光を弾いた。
「これが綺麗! お義母様に似合うわ」
リリアナのお墨付きなので、見守る侍女達と頷き合ってこの首飾りに決めた。同じ細工の髪飾りが下の箱から出てきて、それもヴェールを留める飾りに選ぶ。
「リリアナのドレスも作らなくてはね」
「私も?」
首を傾げるリリアナに、大切な役目をお願いする。視線を合わせて手を握った。
「リリアナにお願いがあるのよ。私とオスカル様の結婚式で、黄金の鳥を運んで欲しいの」
皇族の結婚式で、神殿に納められる飾り物だ。純金で作られる小さな動物をひとつ、結婚式のたびに増やしていく。オスカル様と私が選んだのは、小鳥だった。大きさは親指ほどの細工物で、重くない。専用の箱に入れて、未婚の親族が納める慣わしだ。
「私でいいの?」
「リリアナ以外にお願いする気はないわ。だって、私達の最愛の娘だもの」
「お祝い、する」
引き受けてくれる彼女を抱き寄せて、額にキスをした。笑顔を振り撒くリリアナは、その後も小物選びを一緒に楽しんだ。
二人とも子どもがいるので、婚約を飛ばして結婚式の準備に入る。オスカル様は領地の仕事で公国へ戻り、大公家も賑やかに準備を始めた。
アルムニア公国の慣習で、大公妃を迎える結婚式をもう一度行うのだとか。以前一度結婚しているので、人生で3回も結婚式が経験できる。すごく得した気分だった。
「あらあら、私達の仕事がなくなってしまうわ」
「いいじゃないの。私達はお金だけ出しておきましょう」
お祖母様とお母様は、そう笑い合って手伝い始める。様々なしきたりや決まり事を教えてもらいながら、私とリリアナは準備を進めた。
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