56.スイーツより甘酸っぱい
互いの皿を交換し、切って口に入れる。バナナは熟して甘いけれど、チョコはかなり苦かった。バランスが取れている。二口ほど食べたら、またお皿ごと変えた。
「思ったよりほろ苦くて好きです」
「それはよかった。そちらは甘いばかりですが平気ですか?」
「ええ、イチゴやキウイは酸味がありますので、美味しくいただいています」
お世辞でも嘘でもない。その証拠に、話す間に口に入れていたら、あっという間に食べ終えてしまった。自分でもびっくりする。運ばれてきた時は、量が多いと思ったのに。
「紅茶もいい香りです」
スイーツに凝ったからか、シンプルなダージリンが選ばれていた。香りもいいし、渋くなくて飲みやすい。口の中をさっぱりさせてくれる紅茶に、オスカル様はレモンを入れた。私は果物が酸味の強い種類だったので、ストレートで飲む。
お茶もスイーツも終われば、ほっとした。体も紅茶で温まり、気持ちが落ち着いてくる。やっぱり甘味は精神的な支えになるわ。店の入り口での騒動を忘れ、しっかり楽しめた。
「お待たせいたしました。持ち帰りのスイーツになります」
テーブルまで届けられたスイーツを持ち、オスカル様が立ち上がる。差し出された手を受けて、腕を絡めた。この店では通路が狭いので、並んで歩くには近寄る必要がある。スイーツを楽しむ人々の間を抜け、会計を済ませて外へ出れば……騎士が敬礼する。
「ご報告はいかがしましょう」
「帰ってから受ける。これを皆で食べてくれ」
「ありがとうございます」
嬉しそうに箱を受け取った騎士は、踵を鳴らして敬礼すると離れた。代わりに別の騎士が斜め後ろにつく。直接目に入らない位置で警護するためだ。気遣いが洗練されているし、制服もカッコいい。騎士に微笑んで会釈する私を、オスカル様がぐいと引き寄せた。
「あら」
「このままで」
希望を伝えられ、腕を組んだまま歩き出す。石畳の道に不慣れな私に気遣ってくださったのね。そう解釈し、今までより大きく足を踏み出した。安定しているから、歩きやすい。
報告は後でと言ったのは、きっと先ほど連行した女性のこと。婚約者を自称していたけれど、あれは犯罪行為よね。貴族の婚姻や婚約は、家同士の契約よ。勝手に名乗るのは、お相手の家に迷惑がかかる。
オスカル様に迷惑を掛けるつもりだったのかしら。考え事をしながら歩き、他より飛び出した石に躓いた。
「きゃっ!」
「おっと、足は大丈夫でしたか」
さっと前に出たオスカル様が、両腕で抱き止めた。転ばずに済んだことにほっとして、顔を上げてお礼を言う。周囲のしーんと静まり返った様子を見回し、自分の姿をもう一度確認した。何かおかしい……っ!?
抱き付いたまま縋るような体勢に、顔が赤くなった。耳や首も赤くなり、隠そうと手で覆うも足りない。ばさりと上から何かが掛けられた。
「これで見えません」
薄暗くなった私は、オスカル様の上着に覆われている。ふわりと香る柑橘系の爽やかな……匂いにさらに赤面してしまい、動けるようになるまで数分かかった。
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