44.春祭りの誘いに心躍る
お祖父様達へ挨拶をする声に、振り返る。アルムニア大公令息オスカル様で間違いないわ。緊張は見えず、優雅な所作で挨拶を終えた彼にお祖父様が声をかけた。
予定通り到着できたようで安心したわ。お母様に促されて皇族席へ上がり、ナサニエルをベッドに寝かせた。小さな手が私の指先を握り、きゅっと力を込める。この子を守るのは、母である私の役目よ。安心していいと微笑んだ。
「お久しぶりです、バレンティナ様」
オスカル様も、大公家の跡取り。王弟殿下である大叔父様の養子である以上、皇族扱いになる。グラセス公爵家に皇女が降嫁したため、息子であるオスカル様は皇族の血筋で間違いない。振り返った先で微笑む彼に、私はゆっくりカーテシーを披露した。
今まではナサニエルを抱いていることが多く、きちんとお見せしたことはなかったわ。淑女らしく振る舞う私に、オスカル様も最高礼で応えてくれる。
「先日はとても助かりましたわ、オスカル様。もしよろしければ、ナサニエルにも声を掛けてくださいませ」
「もちろんです」
ナサニエルは人見知りには早いのか、差し出された指を握手するように握る。
「お飲み物でもいかが?」
お母様の誘いで、私とオスカル様は豪華な椅子に腰掛けた。一人掛けの椅子ばかりが用意され、丸いローテーブルを囲む。長椅子は離れた位置に用意されていた。
お茶菓子を載せたタワーが用意され、ツマミを並べたお皿もある。ワイングラスをオスカル様の前に置いたテレサが、ボトルを傾けた。私は授乳があるので飲めないけれど、お母様は飲むみたい。ワインを注いだグラスを手に取った。
「乾杯はお父様がいらしてからね」
お母様はそう言って軽くグラスを掲げ、口をつける。オスカル様もそれに倣った。貴族からの挨拶が一段落すれば、お祖父様やお祖母様もこちらで休まれるとか。乾杯の挨拶は、その時まで取っておくようです。
お父様はフロアに降りて、あちこちで挨拶を受けていた。こうしてみると、お父様ってカッコいいわ。各貴族家の当主のみがマントを掛けるの。襟があるマントを肩にかけ、左肩の上で固定する。表は艶のある黒に、金銀で紋章の刺繍を施す。裏地の色で爵位がわかる仕組みだった。
帝国の社交界のマナーや伝統は、私が知るモンテシーノス王国と全然違う。大急ぎで覚えたから、何か間違えたら恥ずかしいわね。皇族席から出ないようにしましょう。ナサニエルもいるし。
侍女のテレサはワインを注ぎ終えると、ナサニエルの近くに下がった。夜会の間に泣いたりしたら、テレサがあやしてくれる。頼りになる育児経験者がいるだけで、気持ちがすっと楽になった。
「リリアナ嬢はお元気かしら」
「ええ、今回は同行できなかったのですが、またお会いしたいと駄々を捏ねて大変です」
笑うオスカル様の表情は、リリアナの我が侭が可愛いと語っていた。とても愛らしい子だったわ。私もまた会いたいと、社交辞令ではなく本音で伝える。
「それは喜ぶでしょう。これから冬になるので、春を待ってご招待します。アルムニアの方が春が早いのですよ」
ちらりと母の表情を窺うと、大きく頷く。問題ないみたいね。私は承諾を伝えた。
「アルムニアは春に大きなお祭りがあるの。楽しんでくるといいわ」
お母様が付け足した情報に、オスカル様も祭りの話を始めた。芽吹きを祝い、鮮やかな花を飾るお祭りなのね。見てみたい。紅茶とお茶菓子を挟んで、楽しい会話は弾んだ。
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