07.用意された気遣いが嬉しい
夫譲りの金髪と、私にそっくりなアンバーの瞳。私の顔を見て小さな手を伸ばそうとした我が子に、ぽたりと涙が落ちた。いけない、この子が濡れてしまうわ。両手はお包みで塞がっているから、上を向いた。でもまた顔が見たくて、視線を下げる。
あばぁ。そんな声を上げて嬉しそうに手足を動かす我が子を、私は抱き寄せた。ああ、腕が疲れるわ。食べて鍛えないと、母親は務まらないのね。お乳をあげたいけれど、今は満腹なのかしら。口元から甘いミルクの香りがした。
「ありがとうございます、お母様……お父様」
後ろからそっと入ってきたお父様にも微笑みかける。涙で滲んだけれど、私のナサニエルよ。ここ数日で重くなった気がする。でも私の体力も落ちたから、本当はそんなに違わないのかも。小さな変化を見つけては嬉しくなった。
この子がいれば、私は強く生きていける。
「ナサニエルと名付けたのね。お祖父様から頂いたの?」
「ええ。ひいお祖父様は強くて立派な方だから」
皇帝として最高在位を誇ったあの方の名なら、大切なこの子に相応しい。我が一族の末っ子として、立派に育って欲しい願いを込めた。お母様は嬉しそうに何度も頷き、ナサニエルを抱いた私を抱き締めてくれる。覆いかぶさるお母様の後ろで、お父様は複雑そうに呟いた。
「ナサニエル先皇陛下相手では……くそっ、私の名を取ってアウグスト・ジュニアにしたかった」
「アウグスト、大人げないことを言うものではありません。可愛いティナが、もう一人くらい産んでくれるわ。その子に取っておいたら?」
お母様がびっくりするようなことを仰るから、私は固まってしまった。もしかして、あの家に私を返すの? 強張った表情に気づいたお母様が、困ったような顔で訂正した。
「ごめんなさい、無神経だったわ。ティナをセルラノ侯爵家に渡すことはないわ。ただ、まだ若いんだもの。恋をして、別の方と子を成すかも知れないでしょう?」
ほっとしたら、急にナサニエルを重く感じた。気が張っていたのが解けたのね。気づいたお母様がナサニエルを受け取り、侍女テレサが受け取った。じっと目で追う私に頷き、彼女はベビーベッドに寝かせる。どきっとした。
あの時と同じ光景に思えた。眠って目が覚めたら、知らない子が寝ていたわ。震えながら手を伸ばす。テレサは一度ベビーベッドに寝かせたナサニエルを、もう一度抱き上げた。
「お嬢様、若様はこちらの籠に入れてお傍に置きます。それから、ベッドのこちら側は柵をいたしますのでご注意ください」
彼女の言葉に私が頷けば、我が家の家令サロモンが一礼して入室する。彼が指示すると、侍従達がベッドの窓側に柵を設置した。細い木製の柵は上部に飾りが施され、内側に綿生地が張られていた。覆われた木製の柱の間は狭く、赤子の手もすり抜けられない。
用意された柵は、寄り掛かっても倒れないよう打ち付けて固定された。
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