24.オーク襲撃

 グオオオオオ。


 ある日。のんびり待機という囮をしていたらオークの遠吠えが聞こえた。

 これは戦闘を意味する符合らしく、陣地に緊張が走った。


 私たちの護衛として残っている騎士団員が焚火の周りから立ち上がる。


「様子を見てきます。なるべく動かないように」

「はい、行ってらっしゃい」


 私たちを残して騎士団がすぐ近くを偵察して回った。


 グオオオオオ。


 今度はさっきと反対側から声が聞こえた。

 なんだろう、まるで誘われているみたいだ。

 すぐに護衛の騎士団の人たちが戻ってきて反対側へ進んでいった。


 そうそうポーションづくりの見学をしたのだけど、綺麗な青になったのであの薬師の人は驚いていた。

 なるほどこれがハイポーションか。と納得顔だったのだけど、それ以来私はある意味変な目で見られている。

 なんでこんなことができるのか不思議なのだろう。

 納得できないのだろうけど、鑑定で選んできた以上のタネや仕掛けはない。


 陣地にオークが入ってきた。

 フィリア様を後ろに回らせる。もちろん保護するためだ。

 そして私とサフィアちゃんが杖を構える。


 グオオオオオ。


「くっ」


 目の前で吠えた。恐ろしい。


「子供たちを好きにはさせない」


 あのやる気のなさそうだった薬師のおじさんがなんと私たちの前に飛び出してきてしまった。

 アッと思ったのだけどもう遅い。

 薬師は戦闘員ではないけど、私たちは少しでも戦える。

 確かに彼には実力を説明していないのだけど、戦闘魔法くらいは使えるのだ。


「ぐああ」


 案の定、オークの大きな右手でぶん殴られて飛んでいった。


「ファイア・アロー」

「ファイア・アロー」


 火魔法の基本、火矢ファイア・アロー。実戦で使うのは初めてだけど。

 私とサフィアちゃんから飛び出した火矢はオークを貫いていた。


 バタンと近くでオークが倒れて音がする。


「あっ、薬師さん」


 急いで薬師さんの容態を確認する。

 すでに気を失っているが死んではいない。

 胸をなでおろすものの、このまま放っておけば死んでしまう可能性もある。


 胸にはオークの爪痕があり血が出ていた。

 薬師さんが作ったハイポーションを胸の上から掛けていく。

 外傷はほぼ完全に治ったようだった。


「でも、まだちょっと心配だ」

「うん」


 サフィアちゃんのいう通りだと思って、今度はヒールも使ってみる。


「ヒール」


 また緑の粒子が広がっていく。


「うっ、これは。この光は、奇跡……」

「奇跡じゃないです。ヒールですよ」

「これがヒール、なのか。うっ、ごほごほ」


 まだ完璧ではなかったようで咳き込んでいた。

 しかし驚いてはいるものの、怪我は治っていた。


 それからしばらくして護衛のさっき出ていった騎士団の人たちも戻ってくる。

 倒れているオークにとてもびっくりしていた。

 私たちが倒したと報告したらそれも驚かれた。


 いやちっこいからって力はないけど、魔法はある。

 完全になめられていたらしい。解せぬ。


 隊長さんには頭をいっぱい撫でてもらったけど、途中からぐりぐりになって最後に優しくゲンコツをもらった。


「あまり、無理はしないでください。私の首が飛んでいしまいます」

「あはは、わかりました」


 確かに首は怖い。

 今回は敵も多かったようで、大怪我をした人が一人出てしまった。

 その人には残りのハイポーションを使用した。

 それから小さな怪我をした人たちは、私がまとめてヒールを掛けておいた。


「なんだ、この緑の光」

「天使様ってこれか」

「あぁ、なるほど天使様か」

「すごく暖かい」

「ママ……」


 私はママではない。

 それから私は天使様扱いだった。

 最初会ったときに天使様と聞いたのはフィリアお嬢様のお戯れだと思っていたらしい。


 とにかくこうして今回の討伐任務はなんとか無事終わりそうだった。

 そしてハーブを入れたご飯にも慣れてきた。というか飽きてきた。


「そういえばアイテムボックスに焼きスラッグとか入ってるんだった」


 思い出した。ご飯類は屋台で爆買いしたことを。


「みなさん、屋台料理を食べましょう」

「え、なんだ」

「屋台料理って?」


 とにかく出してしまおう。

 適当に皿に出して置いたら、みんな涙をポロポロこぼしながら食べまくっていた。


「うまっ、うまうま」

「美味しい」

「この濃い味。これだよこれ」

「この忘れかかっていたタレ。最高」


 こうしてみんなで美味しいご飯を最後に食べた。

 陣地を片付けて、戻ることになった。


「なんだか、夢を見てるみたいでしたね、隊長」

「ああ。なぜか今年は快適だった。天使様のおかげだな」

「ハーブもそうなんだそうで。いやはや、最近の子は進んでますね」

「お前らももっと頭使ってくれ」

「隊長だって人のこと言えないでしょうに」

「そりゃそうだが、あははは」


 こうして馬車に揺られて帰っていく。

 一緒の馬車の隊長は終始ご機嫌だった。


 一時は重症者が出たり陣地に入られたりしたが、なんとか丸く収まって第三都市エルドリードに全員無事で帰還することができた。

 例年だと重傷者をぐるぐる巻きにして戻ってきたので、全員ニコニコで驚かれたという。

 この後、私の名前はエルドリード騎士団に天使様としてまことしやかに知れ渡ることになるのだけど、それはまた別の話。

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