23.オークとの持久戦
さて陣地を作ったらいよいよ討伐の仕事だ。
やるのは騎士団の人たちで私たちは後方支援なので陣地に残る。
「仕事なのにこっちから打って出たりしないんですか?」
「エミル様、目の付け所はいいと思います。実を言えばエミル様や馬などみんな囮なんです」
「え、私たちって囮だったんですか」
「はい。オークは人間の食事の匂い、それから馬も食べますからね」
「な、なるほど」
そっか、オークって雑食で何でも食べる。
私たちも食べられちゃうかもしれないのだ。
料理を食べて引き上げてくれるとは思えない。
しばらくのんびりしていたとき。
「敵、近い。けど数匹」
サフィアちゃんが反応する。
少ししたら騎士団が動き出した。
サフィアちゃんの闇魔法の索敵魔法のほうが範囲が広いらしい。
さすが属性魔法の使い手は強い。
「さすがサフィアちゃん」
「えへへ」
頭を撫でると耳がピクピクして可愛い。耳を撫でることもある。
尻尾はごきげんに左右に揺れていた。
なんでこんなに可愛いのに、教会はこの子たちを目の敵のようにするのか、本当に納得できない。
キンキン、キン。
「剣の音……する。エミルちゃんは私が守る」
「うん」
サフィアちゃんが緊張しだした。
さすがに敵が近いのだろう。騎士団は弱くはないので信頼はしているけれど。
それでも撃ち漏らしたり、私たちのほうが「いい匂い」で誘われてきたら大変だ。
美味しそうな匂いがしていませんように。ちょっと笑ってしまいそうになるお願いだけど、これでも真面目な話だ。
私たちは囮よろしくスープの鍋を混ぜている。
騎士団の食糧を使って晩ご飯を作るのを手伝っていた。
フィリア様も鍋を混ぜるのだけは手伝ってもらっている。
交代で鍋を定期的に混ぜる。大きいので思ったより重労働だけど、特に文句も言わないのはフィリア様も偉いと思う。
「えへへ、ハーブ入れちゃお」
思い付きだけど、家の裏や平原で採れる数種類のハーブを投入する。
こういうのは遠征で必要になると思っていたのでアイテムボックスに放り込んである。
ハーブは少し入れただけでもいい匂いがして食欲をそそる。
塩に野菜のみとかちょっと元のスープの出来は寂しそうだった。
香味野菜がせめてあればよかったんだけど、タマネギくらいしかなかった。
ハーブはサービスするので、後でみんなで食べましょう。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
フィリア様の合図で討伐から戻ってきた騎士団の人たちと一緒に食事をする。
「あれ、なんかうまい」
「ほんとだな、なんでだろう」
「ハーブですね」
「ハーブって雑草の?」
「そうそう雑草のハーブです」
「なんだそれ」
「ふふふ」
よく分かっていないみたいだけどまあいいや。
みんなで美味しいご飯が食べられればそれで。
こちらには麦粥にもレモンリーフなど、さっぱりする香りのものを入れてある。
入れたハーブの種類が違うので風味が違って美味しい。
ご飯を食べて満足した面々は夜は寝るのだった。
夜番の騎士団員を残してみんなで寝袋を並べて寝る。
なお私たちは騎士団長のこっち側に少しだけ離れて女子スペースを作っている。
そういうところにも気が利く隊長で大変うれしい。
オークは人間と同じような生活リズムなのだそうだ。
それから毎日のように昼間は討伐に出て、朝夜の食事をとる。
たまに怪我をしてくる人もいるけれど、まだ在庫のポーションでなんとかなっていた。
大怪我をしてきた人はまだいない。
フィリア様のヒールの練習台になった人はいたけど、やっぱりフィリア様は調子が悪くなってしまったのでしばらくヒールは禁止になった。
私のヒールが必要になるようなことがないことを祈ろう。
高品質のヒール草は魔力が余っているときに鑑定をしてアイテムボックスにため込んである。
場合によってはこれを放出してポーションにしてもらうのだ。
私のヒールだけで追いつけないことも最悪のケースではあり得る。
何事も備えあれば憂いなしと昔からいうし。
ただオークの数は多いのか、毎日戦闘をしているのにまだ撤退命令は出ない。
毎日無理はしない範囲で誘い出し、ちまちまと退治しているらしかった。
なるほど、これは持久戦だ。
魔力は限界以上には溜められないが、ヒール草はアイテムボックスに入るだけ入れられる。
だから余った魔力は鑑定に回してヒール草を集めて回る。
個人の力よりもみんなでなんとかするほうが賢いと思う。
「これヒール草なのでポーションにしておいてもらえますか」
「いいですよ」
薬師の人だ。この人がメインで火の管理をしていて料理なども作っている。
ただ普通の料理のため、味はあまり美味しくないので、勝手にハーブを入れたりしている。
まだ怒られていないので、たぶん大丈夫だろう。
薬師ならハーブくらいは知っていると思うし。
「見学していいですか」
「あぁ、いいよ。普通の作り方だ」
「なるほど」
特段普通らしいけれど、それでも十分だった。
なるほど、これなら見様見真似でも私でもできそうでよかった。
今度機会があったら自分でやろう。
こうしてポーションの基本的な作り方も学習したのだった。
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