22.オークの森

 門の外は草原だ。

 いつも私たちがヒール草を採取していた場所なので感慨深い。

 今はほとんど採りに来ることがなくなった。

 それはそれでなんだか寂しい。


 本来ならもっと外のヒール草を大量に採ってすべてハイポーションにできれば都市はもっと潤って貧困問題も雇用問題もみんな解決するのだろうけど、そうはいかないのだ。

 外のヒール草は高品質のものの割合が低い。

 確率という概念をおじいちゃんに教わり知ってからは本当にお世話になっている。

 こういう基礎教養が生活の向上を考えるうえで重要なヒントになる。

 だから勉強はした方がいいのだ。


 さて西の森へと進んでいく。

 表層のこのあたりはまだゴブリンがたまにいる程度で特に脅威ではない。

 戦闘ができる冒険者くらいになっていれば、このあたりに単独で採取しても大丈夫だろう。


「森だね、エミルちゃん」

「うん」

「前に魔石取りにきた以来だ」

「そうだね。でも今回はもっと奥だって」

「だよね」


 気を引き締める。

 さらに奥の方へ進んでいくと状況はしだいに変わっていく。

 オークだ。この森の奥には豚顔の巨大な魔物オークが棲んでいる。

 痩せこけたゴブリンと違い何倍も強い強敵だった。


 弱い冒険者であれば四人ぐらいは欲しい。

 よい装備を揃えている騎士団員であればソロでもなんとか倒せるだろう。

 だから今回は冒険者の依頼で済まさず、騎士団の派遣という形を取っていた。

 モンスター退治といえば冒険者のイメージが大きいだろうけど、敵が強かったり数が多い場合は戦闘集団である騎士団や軍隊のほうが有利なのだ。

 特殊な依頼や騎士団では手に負えないほど強いモンスターの場合は、Aランクなどの冒険者の依頼になる。

 うまいこと使い分けてなんとかクエストをこなしているのだ。

 地域によっては強い冒険者がいなかったり騎士団が弱っちかったりするとクエストがこなせず、依頼がずっと溜まっていってしまうようになり機能不全になる場合もある。

 なるべくそうならないように国の直轄である王国騎士団を派遣したりとフォローすることもあるが、どうしても後手に回りやすい。


「あれ、おっきいキノコ、サルノコシカケ」

「うん」


 滋養強壮剤として一定の需要があるというが、あまり採る人もいなくて品薄だけど、まあそのままになっている感じだ。

 これはポーションやハイポーションがあるからだけど、魔法薬よりもキノコのような自然薬品のほうが体の健康にはいいとする説もあるので、好きな人はキノコのほうがいいという人もいる。

 このあたりまで来ると採取のみの初心者の冒険者は活動範囲外なので、採取をする人が減ってくるのだ。

 魔物を狩ったほうがずっと実入りがいい。

 クマでも仕留めれば、金貨何枚にもなるはずだ。倒したことがないからいくらになるかまでは知らないけど。


 途中、道ごと小さな沢を渡る。浅いので洗い越しといってそのままなのだ。橋などはない。

 こんな森の中まで橋を作ってくれる物好きもいない。

 領主の権限で橋を作ってもモンスターに壊されてしまうかもしれないし、そもそもここまで来る人があまり多くない。

 ベテラン冒険者とかになると洗い越しくらいは当たり前なので、へっちゃらで橋自体に需要がないのだろう。

 というような話題を私とサフィアちゃんでしていたら、フィリア様と騎士団の人たちに感心されてしまった。

「いやぁエミル様たちは博識であられる」

「いや、別にこれくらいはね」

「そんなことないですよ。騎士団は脳筋ばかりで、困ってるんですよ」

「そうなんですか」

「そうなんです。本来は事務作業や市民を先導したり指揮をとる仕事もあるので、脳筋ばかりでは」

「あはは」


 これには私も苦笑いだ。

 ボルドおじいちゃんのおかげで、私たちはいろいろなものに詳しいのだ。

 こんなところで褒められるとは思わなかった。


「どうだい。騎士団の仕事の手伝いとか」

「ボーロン隊長、駄目です。ヒーラーは私たちの管轄ですので」

「そ、そうか」


 そうそう、騎士団の他にも雑用係の人とかあと忘れてはいけない薬師の人がいる。

 私は薬草を採ってくるのが専門であってポーションが作れないのだ。

 だからそれは専門の人に派遣してもらった。

 ただ態度はあまりよろしくない。なんでこんな仕事しなければという顔だったので、放っている。

 どうせ私のこともヒール草を採ってくる雑用係ぐらいにしか思っていないのかもしれない。

 効果の高い薬草を採ってくる娘だ、と説明されているはずなのに、信用していないらしい。

 最近噂の子だとピンとくるのが普通だと思うんだけど、どうも調薬室に籠ってるタイプかもしれない。


「到着です」


 森の奥。小川が流れているほとりに陣地を取った。

 なるほどここなら水にも困らないだろう。水の品質も悪くはなさそうだ。

 井戸がないと川や小川頼みなので、品質にもばらつきがある。

 泥水しかなかったら泣いてしまう。


 料理鍋などを馬車から下ろしてテントに運んでいく。

 お馬さんは休憩だ。そのへんの草をムシャムシャしている。

 もう夕方なので私たちも早くご飯にしたいところだ。

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