3章 森のオーク討伐

21.オーク討伐隊結成

 それからしばらくして。

 とりあえず愛玩奴隷つまりフィリアお嬢様をペットとして譲り受けるという件はうやむやになった。

 それはいいんだけど、そのフィリア様はちょくちょく私の家に遊びに来るようになった。

 たまにオレンジや夏ミカンを食べて帰る。

 ヒール草が入った麦粥も案外好きで、文句も言わずにパクパク食べる。


 そんなある日。


「実は近々、オーク討伐隊が結成されることになりまして」

「それが私と何の関係が?」

「それがですね、お父様が是非、ヒーラー兼、薬師として連れていきたいと」

「いいですけど、条件があります」

「なんでしょう。お伝えしますわ」

「サフィアちゃんも同行させること、私たちの行動に強制力はないこと、以上二点です」

「聞いておきますね。あ、それから私もエミルお姉さまについていきますので、よろしくお願いします」

「あ、うん。まあサフィアちゃんと三人で仲良くやろうか」

「はいですわ」


 さて問題がないわけではない。

 私がいないとハイポーションのためのヒール草の選別ができない。

 自分の分だけであればアイテムボックスに放り込んで置けばいいのだけど、自分が移動してしまうので、それだと毎日ギルドへ提出しに行けないのだ。


「どうしたらいいかな?」

「そうですね。むむむ」


 フィリア様も悩みだしてしまった。


「えっとね、効力が九割くらいでいいなら、そのうちの庭のヒール草持っていくだけでもいいんだけど」

「そうなのですか?」

「うん、まあ。ただ確率があるので、完全ではないんだけど」

「ほとんどハイポーションだけど少し効力が落ちるということですね。まあ討伐隊のほうが重要でしょうね」


 オークは森に棲んでいて、この時期繁殖したものが大きくなって増えてしまう。

 毎年討伐隊を組んで数を減らすのが慣行行事になっていた。

 問題はかなり犠牲が出ることだった。

 中には死亡者も数名いた。そして怪我人はもっと多い。


「私が行かないと、死んじゃったり大怪我で後遺症が残ったりしちゃうんでしょ?」

「わかってらっしゃるようで、助かります」

「しょうがないんだよね」

「はい。神官さんたちは普段の行事で忙しいので」

「だよね」


 私のマジックバッグにはビッグスラッグ焼きとかの食糧も満載されている。

 たまにお腹が空いたときに思い出したように食べているんだけどまだ全然減らない。

 こういう遠征にはもってこいだ。私は賢いので。


 兵糧くらいは知っている。

 軍隊で一番重要なのはご飯だ。満足に食べられないと碌に戦闘にならなくて負けてしまう。

 士気も重要だけど士気が上がると言ったら姫騎士様以外であればご飯くらいしかない。

 女の子とご飯を比べるというのもあれだけど、事実だと思う。


 今回はおじいちゃんは連れていかないつもりでいる。

 途中で腰が悪くなったら困るし、治せるかもしれないけど。

 それに密かに何かしているみたいで思ったより忙しいみたいだ。

 何をしているかまでは知らないけど、何日も家を空けるのはたぶん不味いと思う。


 そうしてこうして準備をして、あっという間に遠征の日になった。

「じゃあ、お母さん、行ってきます」

「いってらっしゃい。命を大切にするのよ」

「わかってるって。子供じゃないんだから。あ、子供だった」

「もう、しっかりして」


 迎えにフィリア様が来ていたので、彼女についていく。

 領主の娘の割には一人でほいほい出歩いていることが多い。

 私とサフィアちゃんが後ろを歩く。

 サフィアちゃんはすでに緊張していて、尻尾と耳がピンと立っていた。かわいい。


「サフィアちゃん、大丈夫だよ」

「だってオークだよ、オーク」

「まあそうだけど、別に私たちは戦闘要員じゃないし」

「でも戦闘のために私を連れていくんでしょ」

「うん。そのつもり。何かあったときはよろしく」

「はいぃ」


 もし防御陣を突破して私のところまで来たら火と闇魔法が得意なサフィアちゃんは戦力になる。

 頼りにしている。おおかたそんな事態になる前に騎士団が敵を倒してくれるとは思うけど。


 城門の前にはすでに騎士団と荷馬車が二十人くらい待機していた。


「おーい」

「フィリア様」


 騎士団がフィリア様を見つめて一列に整列した。


「フィリア様に敬礼」

「「「はい」」」


 ビシッと決める。


「ありがとう。でも私は別にいいの。こちらのエミル・フォンデート様にご挨拶なさい。我がエルドリード家の恩人なの。天使様よ。あとその友人のサフィア様。エミル様は私の『ご主人様』だから、そのつもりで」

「天使様、ご主人様ですか?……はっ。エミル様、サフィア様に敬礼」

「「「はいっ」」」


 なるほどよく訓練されている。信頼はできそうだ。


「私は隊長を務めます、ボーロン・エルデバランです。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします」


 挨拶もそこそこに馬車に分乗して乗り込んだ。

 騎士の半分は自分の馬で、もう半分は私たちと馬車だった。

 今回は歩兵はいない。


「では出発」


 みんなで城門を通過していく。

 向かうのは西の森。私たちが以前行った森のさらに奥だった。

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