17.エルドリード教会
毎日金貨を貰って、植物図鑑を見て過ごしていると、エルドリード教会から手紙が送られてきた。
もちろん使者が手で持ってくるので、家の前に黒塗りの馬車が止まっていてびっくりした。
馬車から降りてきた紳士は私に笑いかけると口を開いた。
「こんにちは、
「あっ、こんにちは」
私は緊張した。
高品質のヒール草や、教会へ金貨を寄付したり、それから聖属性持ちであること、など、自分に関係ありそうなことが何個も思いつく。
「教会よりお手紙です。おうちに入れてもらってもよろしいですかな? 外ではちょっと」
「あ、そういうことなら、どうぞ」
家に招き入れる。
「お茶とかはおかまいなく。すぐ帰りますので」
「はーい」
針仕事をしている母親も出てきたけど、そのまま様子を見る。
「エミル・フォンデート様で間違いございませんかな?」
「はいっ」
「エルドリード教会からの使者でございます。本日はお手紙をお持ちしました」
それはさっきも聞いた。
「どうぞ」
「開けても?」
「はい」
手紙を開ける。
親愛なる信者エミル・フォンデート嬢へ。
季節の挨拶から始まり、長い前置きがあった。
うんざりして適当に読み飛ばす。
内容をかいつまんで要約すると、聖属性があるお嬢様は巫女の職業体験実習として、エルドリード教会へきて、治療すなわちヒール実習をすることが強く推奨されているとのことだ。
推奨って書いてあるけど、実質出頭命令というか、強制だよね。
だってエルドリード教会といえば貴族用の教会だ。
そんな上からのご推薦を無下にしたりすればどんな「不幸」が待っているか分かったものではない。
この町には住めなくなってしまう。
「分かりました。来週の月曜日から、ですね。了解しましたとお伝えください」
「確かに、了解の意、聞き届けました。お伝えいたします。それでは」
それだけ言うと紳士はまた馬車に乗り込んで、御者に合図を出し行ってしまった。
「ふぅ」
「教会のお仕事なのね?」
「うん、そう書いてあるよ」
お母さんが確認してくる。
「朝の納品が済んだら、行かなきゃいけないみたい」
「分かったわ。えっと月曜日だから明後日ね、覚えておくわ」
準備とかしていたらあっという間に過ぎて、月曜日。
冒険者ギルドにヒール草の朝の納品を済ませると、そのままエルドリード教会へ向かう。
正直、気が進まない。
お貴族様とか面倒くさいに決まっている。
貴族街区の入口、そこにエルドリード教会はあった。
外装も下級市民向けのマリアーヌ礼拝堂教会とは違って白亜の石組で豪華だ。
早朝一番からの患者の時間も過ぎたのか、外には誰もいない。
大きな入口は開いていたので、おそるおそる入った。
「おはようございます……」
中の礼拝堂の人の注目が集まる。
いるのは3人。
従者と思われる立っている人。その近くの長椅子に座って祈りをささげている人。
それから寄付金を集める係の若いシスター様。
なんとなく印象もいい若いシスターに声を掛けることにする。
「あの、教会からヒール実習で呼ばれてきたんですけど。私はエミル・フォンデートです」
「あっはい、伺っています。まずはその、服をお着替えください」
「はい」
「こちらです」
通路を通り、小さな個室が並んでいる廊下へ出る。
「こちらがエミル様の個室となります」
「えっ個室?」
「はい、一時的にですが部屋が割り当てられます。ここには汎用の更衣室などはないので」
「ああ、なるほど」
中に入ると狭いけれど綺麗な部屋があった。
ベッドとテーブルと椅子もある。
クローゼットを開けると、中に白を基調とした巫女服がある。
ここでおじいちゃんに習った教会についておさらい。
教会には、取りまとめ役でミサを仕切る一番偉いブラザー神父様。
治療魔法ヒールが使える男性のプリースト司祭様と女性版のプリーステス巫女様がいる。
ヒールが使えない聖職者である男性神官たち、女性版のシスターたちという風に名称が異なる。
あとそれらに属さない召使、メイドさんもいる。
私が担当するのはプリーステスの巫女だ。
見習いであっても、ただのシスターより上とされるらしい。
だから若いシスター様も私を様呼びする。こそばゆいけどそういう制度だからあきらめる他ない。
神父様は普通は男性でヒールが使えない神官あがりの人も中にはいるけど、だいたいは司祭様から選ばれる傾向にある。
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