16.植物図鑑
またおじいちゃんのところに行ったら、本を渡された。
「エミル、ハーブマスターになりたいと言っていたじゃろ」
「うん」
「王都から特別に植物図鑑を取り寄せたのじゃ」
「えっ、植物図鑑?」
「そうじゃ植物図鑑じゃ」
手書きのコピー本で、厚みはそこまでではない。
ペラペラめくってみると、綺麗なカラーイラストに名前、説明文が並んでいた。
こういう本は地味に高いのを知っている。
おじいちゃんに感謝だ。
もう何年も生まれる前から版画はあるんだけど、1色刷りがほとんどで多色刷りは滅多にない。
活版印刷もあるといえばある。ただ普及率はというと、いまいちだった。
それにカラーイラストはあまり印刷に向かないのだ。
ということでこの本のイラストは手書きだ。
私が本を読もうとしたらサフィアちゃんが隣にぴったりくっついてくる。
その位置から一緒に眺めるつもりなのだろう。
別にけちけちするつもりはないので、問題ない。
ヒール草
植物名の下にはここに絵が描いてある。
一本のまっすぐ伸びた茎から左右対称で90度ごと交互に葉っぱが生えている構造だ。
葉っぱはギザギザした楕円形で裏は白い小さな毛がたくさん生えていた。
花は小さくて白いもので、茎の頂点で密集させて咲く、そういう絵だ。
解説。
ヒール草は高さ最大50センチほどになる多年草。
双子葉類であり、地下茎でも繁殖する。
魔素が濃く日当たりがいい平地を好む。
ヒーリングポーションの主原料であり、もっとも治癒効果の高い高品質なものは高さ30センチくらいをめどに収穫するとよいとされている。
メッシュリア王国の第3都市エルドリードが一大産地とされる。
王都周辺でも規模は落ちるものの収穫量がそれなりにある。
4月の星座、ヒール草座としても知られている。
薬草のほか、お茶、野菜などとしても広く使用される。
リクウミウシ、ホーンラビットなどが好んで食す。
へぇ。と思ってサフィアちゃんに確認してページをめくる。
植物としては見かけたことがあるものも多い。
全然知らない森などに主に自生する種類も掲載されていた。
「サクラ草、ベニヒマワリ、ユキノシタ、アワダチソウ」
見たことはあっても名前は聞いたことがないものもある。
説明を読むと、知らない薬効などが記述されているものも多い。
「これはな薬師の薬草リストなのじゃ」
「ああ、それで薬効がある草が多いんですね」
「そうじゃ」
ふんふん。
軽く読んでどんどん見てしまう。
著者、ヘンリック・バードマン 849年
と奥付があった。
今は西王暦862年だから、13年前かな。
きっと著者の人はまだ生きていそうだ。
そしてまた1ページ目に戻る。
1ページ目はヒール草だ。
ちなみにこの国では8歳以下では3人に1人くらいは亡くなる。
その後の平均寿命は70歳ぐらいだと思う。
ヒューマンは少し長めで獣人さんたちは5歳から10歳程度はやく亡くなる傾向がある。
例外はエルフで、彼らは300年くらいは生きるはずだ。
著者は学者先生ならエルフかヒューマンだろうな。
獣人さんは教会との関係で差別意識が少なからずあり、あまり学者になったりする人は少ない。
とは、まあ、おじいさんの受け売りだ。
ベニヒマワリ草は小型のヒマワリに似た草で、葉っぱは食べると少し辛い。
香辛料の代替植物として有用だった。
草原にもたまに生えているけど、多いのは森らしい。
発汗作用があり一時的に体を温めるが、発汗によりその後熱を下げる作用がある。
辛み成分は食欲増進に効果がある。
オレガノはお肉の臭い消しなどに使うハーブで、香りが強い。
さわやかな匂いがする。ミントの一種。
ふんふん。
「では実地で探してみようか?」
「おう」
サフィアちゃんと本を持って城門の外へと出かけた。
一面の草原にはヒール草だけでなく、さまざまな植物がばらばらに生えている。
ばらばらだから特定の植物だけ探すのはけっこう骨が折れる。
でも私には薬草目があるのだ。
「ほら、これはヒール草」
「うん」
「これがベニヒマワリ草」
「おお、あったね」
「うん。サンプルに採っていこう」
「これがペパーミントだね」
「おう」
「おっとこれがローズマリー」
「そうだね。匂いはなんか嗅いだことがある」
「だね」
とハーブはそこそこ自生している。
薬効とまでなると、あまり生えているものではないけど。
「これがユキノシタ」
「おお」
「腸整薬になるらしい」
ほむ、こうして探してみるといろいろあるものだ。
サンプルはアイテムボックスに入れておく。
時間経過がないので、鮮度が落ちて枯れたりしおれたりしないのは助かる。
こうして植物図鑑を手に入れて、いろいろ詳しくなった。
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