2章 薬草天使とヒール実習

13.アイテムボックス

 おじいちゃんのところに入り浸っている。

 もちろん暇なサフィアちゃんも一緒だ。


「そういえばエミルは全属性が実は2くらいあるじゃろう」

「え、分かんないけど、あるかも」


 属性判定の儀では、聖属性が注目されていたので、用途のない1、2くらいのその他は無視されていたのだ。


「実は全属性が2程度あると、アイテムボックスという収納魔法が使えるようになるらしいのじゃ」

「え、なにそれ、なにそれ」

「万物を異空間に収納するのじゃ。一種の転移魔法とも捉えることができる」

「ほへぇ」

「ほら、ここに夏ミカンがあるじゃろ」

「うん」

「しまっちゃおう、と考えるんじゃ」

「分かった、やってみる」


 夏ミカンを手に取る。


「しまっちゃおう――収納」


 手のひらから夏ミカンが消える。


「消えたっ」

「うむ。成功じゃの。今度は出してみるのじゃ」

「うん。出てこい、夏ミカン――展開」


 手のひらの上に夏ミカンがにょろーんと異空間から出てくる。

 なんだかすごい不思議だ。

 魔法じゃなくて手品、マジックみたい。

 どっちもマジックだったわ、なるほど、これは手品みたいだ、うん。

 一人納得する私だった。



 今日も朝から裏庭の薬草採取と詳細鑑定をして、高品質な薬草20本は納めてきた。

 魔力は毎日、限界近くまで使っているからか最近最大量が伸びてきた気がする。

 私とサフィアちゃんの魔力量は成長期なのだ。


 金貨はまた増えて全部で8枚ほどある。

 よく考えたら、金貨のまま持っていても使えるお店は限定されてしまう。

 金貨1枚は両替してもらった。

 でも他に大銀貨2枚も毎日貰える。

 大銀貨も両替してもらっていくらかは銀貨に替えた。

 そんな高価なものは装備品くらいしかないし、魔法杖ワンドは買ったからあとはバトルドレスくらいしか思いつかない。

 あっあとは、護身用のナイフか短剣が欲しい。


 アイテムボックスを覚えたのだけど、この魔法はかなり珍しい。

 使わなくても分かる。ブラッドベアとかオークとか倒して持って帰ってきて、いきなり異空間から出したら変態だ。どう見ても異常な人、異常なスキルに見える。

 でも世の中にはさいわいにして類似のアイテム、魔道具であるマジックバッグがあるのだ。


「そうかマジックバッグね、これも欲しいリストに入れよう」


 それくらい知識で知っている。

 それなら偽装すればアイテムボックスも遠慮なく使える。

 幸運なことに、私が大金を持っていることはギルド関係者など一部には知れ渡っている。


 別に特大容量のモノでなくていい。

 マジックバッグなんだなぁ、て分かれば用途には十分だ。


「あ、でもサフィアちゃんのも欲しいよね」

「あ、まあ、あれば……」

「じゃあ買ってこようか」


 サフィアちゃんと冒険者ギルドに向かう。


 スイングドアを通過して、知り合いとかに軽く頭を下げる。


「こんにちは」


 中には私が大金を持っていることを知っている人も数人いるみたいで、前とは違うイヤらしいお金を見る目でじろじろ眺めてくる人もいる。

 また腰に刺してあるワンドがトレント製の最高級品なのも目利きの冒険者なら分かるだろう。

 当然そういう杖から発射される魔法が弱いわけないので、強者ほど変な目で見るような命知らずな真似はしてこない。

 チンピラは手を出してくる勇気はないので、目線さえ我慢すれば済む。


 こればかりは有名税だった。


 今日はカウンターではなく、横の売店に向かった。

 冒険者ギルドには市販品ならほぼ何でも売っている雑貨店があるのだ。

 高い物はレジカウンターの後ろに値段とともに陳列されていた。


「すみません。マジックバッグの金貨1枚のと金貨4枚の一つずつください」

「はい、今お出しします」


 お姉さんは顔見知りなのだけど、ちょっと焦ったような顔をして棚から出してくれる。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 見た目は普通の20センチくらいの革袋だ。

 サイフにしては大きい。他には水袋に見えなくはない。


「はい、サフィアちゃん」

「ありがと、エミル」


 私は大きい方をサフィアちゃんに渡す。

 自分はアイテムボックスに入れるから小さい方で問題ない。

 腰のベルトにしっかり紐を結んで取れないようにする。

 さすがにこれをスられたら悲しいにもほどがある。中身ないけど。


「ワンドはどうしようか」

「出しとく、なんとなく」

「分かった、私もそうする」


 お財布はスられやすいので腰紐を解いて、アイテムボックスにしまう。

 というか金貨とかそのまま入れれば必要枚数だけ出せばいいのでは。

 そうしよう、そうした。

 たくさんある銀貨は10枚ほど直接入れて後はお財布袋にまとめて入れておく。


 ちなみにワンピースは中古の安いワンカラーの服のままだ。

 左右に便利なように蓋付きの大きめのポケットがついている。

 これはお嬢様のようなドレスなんて着て歩いたら誘拐されてしまう。

 この方がいいのだった。


 えへへ。

 マジックバッグとアイテムボックスで、また一つ便利になった。

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