国分寺市、お鷹の道は自然も人もあたたかい
佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売
第1話
秋のある晴れた日に、国分寺駅に降り立った。
目的地は「お鷹の道」である。
JR国分寺駅の南口から歩いて700mほどの場所であり、途中なかなかな坂道を登る。
おそらく他にも道があるのだろうが、よくわからなかったので道沿いにまっすぐと進んだ。
坂の途中に案内があり、左に折れて大型マンションの前を横切るとすぐに目的地へと着いた。
崖の下へと続く階段が見え、眺めるとぐるりと円を描くように全長350mのお鷹の道が姿を現す。
小川が流れ、雑木林で囲まれたこの土地は江戸時代に尾張徳川家の鷹狩りを行う場所、鷹場があったところだという。
小川は人が跨げる程度の幅で、散策路も決して長くはない。
しかしその場所に、武蔵野の自然と人の温かみがぎゅっと凝縮されていた。
階段を降りていくと、小川の側にはペットボトルやタンクを自転車に積んだ人が集っている。
話を聞いてみた。
どうやら水を沸かして料理などに使うらしい。
環境省の指定する「名水百選」にも選ばれているという水の流れは、確かに美しく、水底までもが透き通るようによく見える。
「一番奥の溜まり水は綺麗だから、直接すくって飲めるわよ」
と親切にも教えてもらった。
道沿いに左手に流れる川は清涼で、小魚やアメンボなどがよく見える。
川底の石や積もった枯葉などまでじっくりと観察でき、こんこんと湧き出る水がいかに綺麗なのかが実感できる。
右手には朱塗りの鳥居に弁財天が祀られており、「真姿の池」と呼ばれる池には鯉が泳いでいる。
この「真姿の池」は伝承が存在しているらしい。
嘉祥元年(848)、絶世の美女といわれた玉造小町が病に苦しみ、武蔵国分寺で願をかけたところ、「池で身を清めよ」という零示を受けて快癒した、という話だ。
なるほど確かに、ご利益のありそうな美麗な池であった。
途中、地元のボランティアの人に話しかけられた。
なんでもここの湧水は何層ものロームを通り、礫層を通って濾過されているから綺麗なのだとか。
「それでも飲料には向いていませんけどね」
とのことである。
どうやら飲料に使っているのは数十年利用し続けている、地元の人ならではのようだ。
左右の道沿いには農家が地元野菜を売っており、季節がら柿やキウイフルーツ、梨、葉付きの人参や大根などが売っている。
道沿いを進むとすぐに湧水園という場所が見える。お値段100円と安い。
国分寺周辺の郷土資料館も中に存在しているようだ。
散策をしていると、時々木の上から何かが降ってきて地面に落ちる。
どんぐりだった。
枯れ葉とどんぐり混じりの地面を歩いていくと、奥まった場所には湧水源が存在した。
こんこんと湧き出る水は野川の源流となっており、ずっと細々と絶えず流れ続け、等々力渓谷まで繋がっているらしい。
昼食時となったので、湧水園を出て向かいの史跡の駅「おたカフェ」に入る。
持ち込み可の無料休憩所だが、せっかくなので併設のカフェで注文する。
選んだのは「季節のポタージュとトーストセット」。
程なくして運ばれてきたのは、すりおろした人参がたっぷり入った牛乳ベースのポタージュと、バターが染み込んだカリッと焼かれた厚切りトースト。
付け合わせの大根と人参のマリネもいいアクセントになっている。
セットの紅茶はポットに入ってたっぷりと出てきて、渋くなりすぎないよう茶葉が抜いてある。ちょっとした気遣いも嬉しい。
と、秋の陽光と風が気持ちいいテラス席で一人昼食を楽しんでいると、6名のご婦人がやってきて同じくテラス席に腰を下ろした。
持参したおにぎりなどを食べてコーヒーを注文した彼女たちは、やはり持参した茶菓子を食べつつ談笑している。
なぜか一人のご婦人が、菓子を片手に私の方へやって来た。
「あなたにもあげるわ。美味しそうに食べているから」
「ありがとうございます」
こうなると彼女たちはもう、止まらない。
次々に私のテーブルに置かれていく小さな菓子たち。
中の一つはどこかの土産らしく、膨らんだせんべいの中におみくじが入っているというものだった。
ご婦人たちはせんべいを割り、己の運勢を確かめる。
「あら、中吉だわ」
「私も」
「私もよ」
「みんな中吉ねえ」
私も割ってみる。三つ折りにされたおみくじを広げてみた。
「大吉です!」
思わず声を上げると、「あら、おめでとう!」と歓声が上がった。
そこには、「愛情:対人運が大吉。初対面でも積極的に」と書かれている。
お鷹の道での散策を振り返り、当たっていると私は思い、思わず口元が綻んだ。
国分寺市、お鷹の道は自然も人もあたたかい 佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売 @sakura_ryou
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