7 猫モモと姫様

 こうして猫になること毎日。

 姫様の前に出るときも、猫ルックでした。


「桃娘さんが猫娘ですわ、にゃはは」

「にゃんにゃん」


 姫様は猫になりきって戯れると、けっこうよろこんでくれます。


 イミテーションの奴隷首輪には、中身のない丸い猫鈴がついています。

 そして猫耳のカチューシャをつけます。

 まるで猫です。


 獣人がいるので猫獣人そっくりですが、猫獣人を猫のように命令して使役することが理論上は可能なので、そういうものだと思い込んでいる王城の人たちは私を猫のようにかわいがってくれます。


 そして後ろ暗い人たちは共通して私を邪険に扱うのです。

 この世界には『真実の猫の目』という民間伝承があり、猫はすべてを見通し、悪しき者には神罰が下る、といいます。

 だから王様は私を猫に仕立て上げたのです。


 そして私は人間であるからして、王様に真実を告げるのです。

 神罰ではなく、普通に罰が下ります。


 マイクとミゲルですが、どうやらクエルスタンの間諜だったらしく、今取り調べを受けています。

 生きているなら国外追放になるようです。

 死刑の可能性もありますが、そこまでは私はまだ知りません。

 王様の元へ報告がきたら、普通に目にしてしまうでしょう。


 王様に筒抜けということは、私にも筒抜けなのです。

 いや逆か。

 私に筒抜けということは、王様にも筒抜けなのです。


 この国では姫はなるべく陽に当てないように、大切に育てるのが常識だったようです。

 それで白肌が保たれるというのは、事実ではあります。

 しかし度が過ぎていたようで、青白いところまで行っていたのです。

 それで健康が害されていたなら、本末転倒でしょう。


 庭遊びをするようになってから、エステル様も少しずつ体力がついてきて、健康になってきています。

 元々は貧血もあったようです。私の血を摂取しているので、それで改善されて生きていると考えられました。

 それは桃娘だからではなく、貧血だったからとしか言いようがないのですが、王様は今でも桃娘にご利益があると思っています。


 本当にご利益があるかは、実は私には分かりません。

 なんせここは異世界です。

 桃を少女の人体を通してから摂取したらなんて、分かりっこありません。



 そうそうコック長が懸念していた、王様の嫌いな物なのですが、元々レパートリーが多いとはいえ限度があり、コック長が出す料理はどれも美味しかったので、本当に嫌いな物がないというのが答えだったそうです。


 それとなく、嫌いな物はひとつもない、とお伝えしたそうです。

 コック長はまだ半信半疑のようですが、ずいぶんと気が楽になった様子でした。


「王様ったら、嫌いなものが本当にないそうで、俺もうれしいよ」


 と話してくれました。

 これには私もにっこりです。


「そうそう、特に桃がお好きだそうだよ」


 ついでにこう言われました。

 桃を食べるのは私も好きですが、私まで食べられてしまっては困ります。

 その日はドキドキして執務室へ戻りました。


 夕方、一日にあったことを執務室で報告するのも日課になっています。

 報告は膝に抱えられて、頭を撫でられながらします。


 コック長の話をして、他にも二、三点気が付いたことを話しました。



 私が猫になって王城内をうろつくとき、エステル様も一緒についてくることがあります。


「コック長さん、今度、桃のパイが食べたいです」

「ええ、姫様。是非、作らせていただきます。な、モモ?」

「にゃーん」


 こうして私を猫のように可愛がります。

 元々、エステル様は私の匂いが好きで、抱き着いてきます。


 メイドの控室にも行きました。

 ここは更衣室と休憩室がつながっています。


「あら、モモちゃん。それからエステル様」


 メイドたちがエステル様に一斉に頭を下げます。


「いいの、いいの。私のことはお気にせず、続けてください」


 そういって部屋を観察します。


「モモちゃん、またきたの?」

「にゃん」

「かわいいね。それに相変わらずいい匂いね」


 メイドさんが集まってきて、桃の匂いを嗅ぎます。


「おやつあるけど食べる?」

「にゃんにゃん」

「そっか、桃しか食べないのよね」

「にゃん」


 私は首を振ります。いらない、の合図です。

 王宮へ来て以来、桃と水しか喉を通らないのです。


 エステル様は少し欲しそうな顔をしつつも、勝手に食べていけないと承知しているようで、おとなしくしていました。


 こうして遊ぶ時間以外にも、エステル様と王城内をうろつくようになったのです。

 おかげでエステル様も少し体力がついてきました。

 健康への第一歩と言えるでしょう。


 桃しか食べていない私ですが、ことのほか元気です。



 また夕方、王様の執務室へ向かいます。

 もちろん昼間も執務室で王様と書類仕事をしていました。

 書類仕事が終わったら猫の業務なのです。


「よしよし、モモ。報告を頼む」

「はい。今日は姫様が桃のパイが食べたいとコック長に告げていました。メイドさんたちは今日も優しくしてくれます。メイド組は団結が硬く、女の子は派閥を作るので、間諜などは入りにくいですね」

「ふむ、そうか」

「逆に下男衆の男たちの中には、素行が怪しい人も少しいまして、もしかしたら工作員とかかもしれません。どこどこで仕事があるといって潜り込めばいいので」

「そうだな」

「他には目立った動きはありませんでした。あ、小麦の高騰の話が噂されていました」

「ふむ、そうか。よしよし、なでなで」


 こうして王様が私の頭を撫でて匂いを嗅ぎます。


 三女エステル様、王様とは仲良くしていただいています。

 次は王妃様、そして長男、次男、長女、次女と家族とも懇意にしたいところです。

 王族一家の誰とも敵対しないようにしたいのが今の目標です。


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