2 王都からのお迎え

 ついに、お迎えが来る日になりました。

 先ほど先ぶれの早馬が到着して村長に知らせたそうです。


「エイラ、王都からお迎えがきたのじゃ」


 村長自ら知らせに来てくれました。

 しかし一ミリもうれしくはありません。

 桃娘ももむすめとして食べられてしまうことを意味していたのですから。


「はい、分かりました。お仕度をします」


 母親に一番よい服を出してもらいます。

 といっても、白いだけで装飾などがあるわけではありません。

 白は無垢の象徴であり、こういう場合に好まれるのでしょう。


 普通の服は少し黄色がかった麻でできています。

 これは質は悪いのですが、真っ白な綿のワンピースでした。

 少女用のワンピースはノースリーブでミニ丈と風習で決まっています。


 さっと着替えてしまうと、髪の毛をとかしなおします。

 ピンクの髪の毛はストレートロングでけっこうな長さがあります。

 少しだけくせっ毛でとかさないとぼさばさになってしまいます。


「よし、できた。かわいいわ。これなら国王陛下もおよろこびになるわね」

「……はい」


 心の中ではロリコンの国王をののしりたい気分でした。

 しかし口は禍の元。素直に返事だけをします。


 しばらく待つと、外から声が聞こえてきました。

 馬車の音もします。


「エイラ、迎えの馬車が到着したぞ」

「はい、今行きます」


 私は家から外へ出ます。

 覚悟を決めました。

 これがこの家の門をくぐる最後になる決意です。


 家の前には二頭、白馬に騎士様が乗っていました。

 そして白と薄ピンクそれから縁を金の装飾で飾ってある馬車が止められていました。


 ピンクの馬車。


 まさかとは思いますが、桃娘専用の馬車かもしれません。

 普通ならそんなびっくりすることはしませんが、なにせ相手は国王です。


 馬車からはメイドさんが下りてきます。


「お初にお目にかかります。お世話係となりますメイドのエルシーです」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「挨拶もしっかりできて偉いですね。確かに桃の香りがしますね。では国王陛下が王宮でお待ちですので、お乗りください。お荷物は必要ありません」

「はい」


 桃娘に私物は許されていません。

 このワンピースと下着、それから少しだけいい品の革靴だけです。

 靴は村長にいただいたものです。

 先の丸いかわいらしい茶色の革靴で、私のお気に入りです。


 メイドさんに手を掴まれて、馬車に引き上げられました。

 メイドさんと二人の相乗りのようで、そのまま扉が閉められます。

 馬車は二頭引き。騎士様の馬と合わせて四頭です。


 すぐに方向転換をして、村から出ていきます。


「お寂しいかもしれませんが、ご了承ください」

「いえ」


 私が会話もなく窓の外から村を見ていたら、声を掛けられました。



 そのまま馬車は進んでいきます。

 御者さんも別に会話もなく、もくもくと運転していました。

 メイドさんはときおり私の方へ視線を投げかけてくれますが、特にすることもありません。


「この辺で休憩しましょう」


 メイドさんが大きな声で御者さんへ伝えると、しばらくして馬車が停止しました。


 そこは道沿いに小さな橋があり、小川が流れています。

 そして道の横に空き地があり、煮炊きをした跡がありました。

 野良休憩所といった感じの場所でした。


「ふぅ」


 私はメイドさんに馬車から下ろしてもらいます。

 たまにこうして背を伸ばすのも悪くはありません。


 視線の一番奥、遠くにはすでに王都ベルデダラスの城壁が見えています。


 このあたりは穀倉地帯で、延々と麦畑が広がっていました。

 道のすぐ脇は空き地で、普通の雑草が生えています。


 よく見ると葉っぱに虫食いなどがあり、それをたどっていくと、バッタがいます。


「みてみて、バッタ」

「まぁ、バッタなんて、びっくりですね、うふふ」


 メイドさんも少しいたずら心でもあるのか、私に合わせてくれました。


 そうして休憩を少ししたあとは、ひたすら王都まで移動しました。


 馬車がついに城門に到着します。

 私は貴族ではありませんが、王家所有の馬車を止める人はいません。

 貴族と同じように優先して城門で御者のみチェックを受けて通過することができました。

 私たち後部座席はスルーです。これが王家の権威なのでしょう。


「わ、すごい」


 一見上品に座りながら、窓から外を眺めます。

 まさしく、おのぼりさんです。


 生まれてから王都に来たことはなく、この活気も人づてに聞いたことがあるのみです。

 ヒューマン、獣人、クマみたいな人、エルフさん、ドワーフさん、猫耳のお姉さん……。

 さまざまな人たちが活動している風景が窓から見えます。


「そうですね。王都の門前の活気は、国一番と言われていますから」


 メイドさんも少し自慢げです。


 活気のある通りを進んだあとは、今度は立派な建物の地域を通ります。

 冒険者ギルドや商業ギルド、大手の商店などが林立しています。

 そこも通り過ぎると今度は貴族街です。


 警備兵が何人も歩いています。

 人通りは少ないものの、身なりのいい人が何人かいました。


 そしていよいよです。貴族街のメインストリートの最奥。

 お堀があり橋を渡ると、広い敷地があります。


 王城、ベルバッサ城です。


「ここがベルバッサ城」

「はい。今から、エイラ様もここにお住まいになられます」

「はい」


 立派な城門を通り、中へ入ります。


 そして馬車を降りると、目の前には城が建っていたのです。


 ――ここが今からおうちなのですね。


 中で待つ王様たちを思い浮かべながら、気合が入りました。

 武者震いです。ここが家でもあり、私の戦場にもなるのです。


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