桃娘転生 ~桃だけ食べさせられて最後は食肉にされる運命の"桃娘"に転生したけど内政に口出ししていたら聖女にランクアップしました。これで食べられちゃわずに済みます~
滝川 海老郎
1 転生天使じゃなくて桃娘
ほんわか、のほほん推奨です。
頭を空っぽにしてお読みください。
題材の関係上、少しだけホラー要素がありますが、主人公は食べられません。
◇□◇──────────────
俺は地球の日本で普通に男子高校生をしていた。
しかし登校中の事故でトラックに轢かれて死亡し記憶を引きついだまま転生したらしい。
気が付いたというか物心ついたときには、王都近郊の農村で大切に育てられていたのだけど、女の子だったのだ。
それもとびきりの絶世の美少女。
「いただきます」
「いただきます」
ご飯は両親と一緒に食べます。
俺……
両親は麦粥にその辺の食べられる雑草を炒めた料理だけです。
私の料理から取り分けた、干肉を二切れだけ申し訳程度に添えられていました。
「美味しい……」
ご飯はいつも美味しいです。
でも両親とも別で自分だけ贅沢しているのが非常に申し訳なかったのです。
私は桃色の髪をしています。
父親は白髪、母親は赤髪なので、絶妙にブレンドされたのでしょう。
そして村長の家の鏡で顔を見せてもらったのだけど、その時判明しました。美少女だったのです。
やれ、天使様の生まれ変わりだなんだと、もてはやされました。
「エイラちゃん、これも食べてね。なんまんだぶ、なんまんだぶ」
村人はそうやって私の前に食べ物を供えて、拝んでいきます。
私は最初、美少女で天使様の生まれ変わりとして大切にされていると思っていました。
今思えば、この頃の私は美少女に転生して浮かれていたのです。
まったくバカだったとしか言いようがありません。
どういう風習なのかは知りませんが、三日に一回は桃が出されました。
それを私はよろこんで食べたのです。
砂糖が貴重品の世界で桃はとても甘く、すごく美味しかったです。
仕事と言えば家の中で麦カゴ作りです。
村の麦畑の麦わらを使った民生品です。最近は私が提案した麦わら帽子が半数を占めるようになりました。
刃物を使う料理は危険だとして一切させてくれません。
それから鍬などの金属も同様に危険だとして、畑仕事もいっさいできません。
友達のアンナちゃんだけは、うちにきてよくお人形遊びをします。
そんな長閑な日々を過ごしていたのです。
しかしそんな八歳になった、ある日。真実を知ることになりました。
「いつもの干肉どうぞ。エイラちゃんに食べさせてあげて。お肉食べられるのも今だけだから。宮廷からお迎えがきて『
家の前で立ち話しているのを聞いてしまったのです。
近所のおばさんでした。
猟師の旦那がいて、小さい畑があり干肉を製造しています。
うちの干肉はみんなこのおばさんの差し入れで、ほぼ毎日、塩の効いた干肉を食べていました。
しかし「今だけ」だと言っていたのです。
そして……桃娘。
「あっ」
私は口に出してしまったけれど慌てて口をふさぎました。
小さい女の子に桃だけを食べさせて育てるといいます。
そうして育った女の子は四六時中、全身から桃の香りがするそうです。
男性たちは女の子の匂いを嗅ぐという趣向でした。
そしてある程度の年齢になったら、男性の相手をさせられます。
女の子は桃しか食べられないために、病弱で痩せていて、長くは生きられません。
最後にはバラバラにされて、桃の匂いのするお肉にされて食べられてしまいます。
桃娘のお肉は不老長寿になる薬だと信じられています。
一種のホラーでした。
私は顔から血の気が引いていきます。
そうか、だからみんな私を必死に拝むんですね。
心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と悲痛な感情と共に。
私はさすがに動揺しました。
長くは生きられません。しかも最後には殺されて食べられてしまいます。
数日間悩みに悩んだ末、母親に打ち明けました。
この「とってつけたような」、一人称の「私」となんちゃって「丁寧語」も躾けられたものです。
田舎の両親からなので、あまり正確な敬語ではありませんが、致し方ありません。
「ねえ、お母さん」
「なあに、エイラちゃん」
「私、桃娘っていうのに、なるんですよね?」
「どこで聞いたの?」
「家の前で」
「そうよ。ごめんなさい。あなたが今贅沢しているのもみんな投資なの」
「うん」
村の人たちが共同で食べ物を分け与えて、美しくなるように育てます。
そして美少女に育った私は、金貨と引き換えに王宮に売られます。
桃娘として。
いわば、私は生贄だったのです。そう、最初から。
「でも、そうするしかないの。うちの村は貧乏だから。ごめんなさい。ごめんなさい」
母親は私に何回も謝りました。
それはもう頭を床に擦り付けて。
すでに王宮は私のことを把握していて、決定事項となっています。
これを覆すことは、国に反逆するに等しい行為だといいます。
――詰んだ。
俺は、逃げるか。いや、こんな桃色の髪、バレバレすぎる。
それに顔。美少女すぎて目立つのだ。バレないはずがない。
村人にしては小綺麗だし、ほっぺなんてぷにぷにだ。
こんな村人他にいないし、見れば一発で分かる。
私は緊張に晒されていましたが、迎えの日はすぐではないようです。
「エイラちゃん、桃よ」
「うん」
もぐもぐ。
「美味しいです!」
新鮮な桃です。村には桃の木はないので、村長のところの出入りの商人がわざわざ持ち込んだものでした。
しかし、次の日も、また次の日も。
私の食後には毎日桃が出されるようになりました。
桃のコストは相当だろうと思われます。しかしリターンがそれ以上に大きいのでしょう。
――桃娘。
この桃はすでに桃娘になる下準備であることは、すぐに気が付きました。
でも食べないわけにはいきません。
私が逆らったら、村人全員が惨殺されると知っていたから。
桃は美味しい。
そして私からは桃の香りが漂い始めました。
いよいよ迎えが来る日が迫っていることを示しています。
もはや王宮に行って桃娘になる以外には選択肢はありません。
しかし黙って食肉になるつもりは毛頭ありませんでした。
私はどうにかして桃娘ではなく、それ以上の価値のある女の子になる必要がありました。
「さて、どうしたもんか」
私は、桃娘のその後を考えることにしました。
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こんばんは。
【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加予定作品です。
他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。
よろしくお願いします。
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