僕らはクランの安全管理士!
シクラメン
第1話 ブラッククランの裏方を
「せんぱ〜い」
「…………」
「せんぱい?」
「………………」
「起きてますか! メイン先輩!!」
「うん……?」
深夜。闇に包まれた事務室の中で、可愛らしい少女に話しかけられていた青年がぱっと書類から顔をあげた。
その顔は疲労に包まれていたが……可愛い後輩の呼びかけに気が付かなかった焦りも含まれている。
「なになに、どうしたの?」
「『どうしたの?』はこっちのセリフですよ! 先輩、返事してくれないから寝てるのかと思いました!」
「ごめん、見積書の計算してて」
「暗算でやってるのはメイン先輩くらいですよ……。って、そうじゃなくて! これです!」
そういってシアンは1枚の紙をメインに差し出した。
「なにこれ」
「先月の給与明細です」
シアンは手元の灯りに給与明細を照らしたが、眼精疲労で文字がかすれて上手く見えず……ぎゅ、と目元を抑える。
「先輩、大丈夫ですか?」
「まぁ、うん」
後輩の前で疲れている様子を見せるわけにも行かないと思い、メインは頷いて目を通した。
「……普通の給与明細じゃない? おかしなところは何も無いと思うけど」
「本当にそう思うんですか!?」
「数字上は」
「なんですかそれ! 私の記憶が正しければ、私と先輩の先月の残業時間は80時間を超えていたと思うんですが!」
「そうだっけ」
「なんで残業時間が45時間ぴったりになってるんですか? ウチのクランは残業代が10分ごとに付くんじゃないですか?」
「僕に言われても……」
困ったように目を伏せるメイン。
こればっかりは、自分に言われてもどうしようもないのだ。
「だって先輩が私の上司でしょ! しかも、この調子だと先輩の残業時間も誤魔化されてるんじゃないですか!?」
「誤魔化されてるっていうか、僕は残業代出てないよ」
「……はい? いま聞き捨てならない言葉が聞こえましたけど」
「だって僕が『
「トップって、私と先輩の2人しかいませんけど」
「だとしても僕が責任者ってことは変わらないわけ」
「そ、それは気の毒だと思いますけど! だとしても、なんで私の残業時間が誤魔化されてるんですか!」
……うん。まぁ、そうだよね。
そこは気になるよね。
「それはほら、タイムカードってあるじゃん? あの労働時間を決めるやつ」
「……クランリーダーが持ってる魔導具ですよね? 高価だから私たちには触らせてくれないってやつ」
「そう、それ。タイムカードってのは労働時間を測るのに使われてて、それをリーダーが持ってるってことは?」
「……考えたくはないですが、リーダーが誤魔化してるってことですか?」
「そういうこと」
メインの言葉に、シアンは深くため息をついた。
「あーもう! こんなブラッククランだと知ってたら私入りませんでしたよ!」
「うん。僕もそう思う。でも嫌なら辞めるのも手じゃないかな? ほら、最近そういう子も増えてるらしいし」
「私、1年目ですよ!? ここで辞めたらどこのクランが取ってくれるんですかー!!!」
「さぁ……」
メインは返事もそこそこに再び書類に目を戻す。
彼らの仕事はクランの安全管理士。
冒険者が遠征を行ったり、ダンジョンに潜る際に、その全ての計画を担う計画立案者にして、現場における冒険者の生存率を高める安全監督責任者である。
シアンは彼の後輩で、今年入ったばかりの新人だ。
最近までは試用期間でほとんど雑用だったが、先月からようやくちゃんと仕事が割り振られて働き始めた若き安全管理士である。
「メイン先輩。私と結婚してください。結婚して私を専業主婦にしてください」
「僕の給料で専業主婦を養うのは無理だよ」
大真面目な顔でとんでもないことを言いだすシアン。
だが、メインはこの手のやり取りに慣れているので適当に返した。
「転職すれば良いじゃないですか! 先輩なら大手クランでも雇ってくれますよ! 中途で!!」
「いや、無理でしょ」
「何で! だって先輩、うちのクランの業務の8割方やってるじゃないですか!」
「
本来、メインの仕事は冒険者の遠征管理及び安全監督だけだ。
だが、慢性的な人手不足に苛まれている中小クラン『キャット・サイト』の事務も全て彼が行っている。
何しろ他に事務仕事を出来る人が居ないのだから。
「もー!! 嫌味は良いです! あ゛ぁ、専業主婦になりたい……。働きたくない……」
「口じゃなくて手を動かそうか。シアンさん」
「残業時間つかないのに残業する気になれませんよ!」
「でも、残業しないと仕事終わらないから」
「おかしくないですか!? 何で実際にダンジョンに潜る冒険者たちは仕事もしないで定時に帰宅しているのに、ダンジョンに潜ってもない私たちがこんなに苦しい思いしてるんですか!」
「冒険者が死なないようにするのが僕たちの仕事だからね。そりゃ、潜る前が一番忙しい」
「なんで! いっつも忙しいじゃないですか」
「ははっ」
その通りだから何も言えずにメインは笑った。
「もー!! せめて目に生気を持たせて笑ってください! 目が死んでます!!」
「それで、出来たの? 『ダンジョン探索計画表』」
「……さっき出来ました。これです」
メインにせっつかれて、シアンは彼に書類を手渡した。
それを受け取ると、メインは微笑んだ。
「ありがと。これ明日の朝までにリーダーに提出しないといけないから助かるよ」
「なんで明日の朝までの仕事が今日の夕方に入って来るんですか?」
「そりゃ、うちのクランだから」
「先輩はどうして何でもかんでも受け入れちゃうんですか!!」
「慣れだよ慣れ」
そう言ってメインはシアンから受け取った書類に目を通していく。
「……先輩っていま何徹です?」
「3」
「眠くないんですか?」
「眠すぎて頭痛がしてる」
そう言いながらもメインは書類に目を通して、
「ここの体裁直しておいて。それで今日は上がっていいよ」
「ほ、本当ですか? 私、初めて『ダンジョン探索計画表』作ったんですけど大丈夫でしたか?」
「大丈夫大丈夫。これ、リーダーも確認するから」
「最終チェックってやつですね!」
「そ。僕ら安全管理士が立てた計画を最前線にでる冒険者が確認してOKが出たら初めて書類が通るわけだね。まあ、リーダーが確認するから、ちょっとくらいミスがあってもヘーキヘーキ」
「確かに! 先輩とリーダーが目を通すんですからミスがあっても気が付きますよね!」
メインはシアンが直してきた書類に再びチェックを入れると、
「よし! これで良いよ」
メインがそう言って、頷いた。
「ちゃんと出来てました?」
「初めて作ったにしては上出来じゃないかな」
「やった! もっと褒めてください!」
「うん。流石だと思う。この調子で僕の仕事をもうちょっと手伝ってくれると助かるかな」
「それはちょっと……」
シアンは顔を曇らせる。
それにメインは微笑むと、続けた。
「今日は夜も遅いからもう上がっていいよ」
しかし、シアンは溜息をついた。
「先輩。私、年頃の女の子ですよ?」
「今年で何歳だっけ、15?」
「16です! そんな年頃の女の子を夜遅くに1人で家に帰すんですか!? 送ってください」
「僕は君の上司なんだけど」
「こんな時間まで残業させる上司が悪いです!」
しかし、シアンの言うことにも一理あるなと考えたメインは、机の上で灯りを灯していた魔導具のスイッチを切った。
「ま、確かにシアンさんの言う通りだね。送って帰るよ」
「それで良いんです。それで」
シアンはドヤ顔で何度も頷いた。
「そういえば先輩。なんで私のことをさん付けで呼ぶんですか? 年下なんだから呼び捨てでも良いのに」
「僕はクランの中にいる人は誰にでも“さん”を付けて呼ぶよ。そうしないと問題になって『ギルド』から怒られるからね」
「問題って……。名前の呼び方なんかで問題になりますかね?」
「今はうるさいからなぁ。実際に問題にならなくても、気を付けておくことには越したことはないんだよ」
実際、それで是正勧告を受けたクランもいくつかあるらしい。
用心に用心を入れておくに越したことはないのだ。
「呼び方を問題にするくらいなら残業代が欲しいです」
「証拠があれば動いてくれるんじゃないかな。たくさん働いてるって証拠があれば」
「どうやって証拠手に入れるんですか?」
「魔導具買えば良いんじゃない?」
「高くて買えませんよ! 私の給料いくらだと思ってるんですか!」
「1年目だっけ。そんなにもらえないよね」
先ほど給与明細を受け取ったが、細かい数字などいちいち覚えていられないのでメインはぼんやりと返した。
「手取りで金貨16枚ですよ!? 家賃で6枚持っていかれて、残りが10枚じゃ貯金も出来ません! 残業代も出ないし!」
「ははっ。困ったね」
「もー! 先輩!! 今度ご飯おごってくださいよぉ。今月金欠なんですって」
「今度ね」
「約束しましたからね♪」
ちょっとだけ上機嫌になるシアン。
メインはそんなに奢って欲しかったのかなぁ……と、その後ろ姿を見ながら考えた。
「あ、私の家ここです。今日は送ってくれてありがとうございます」
「良いよ。帰り道で何かあったら僕の責任だし」
「あの……お礼もしたいんでちょっと上がっていきませんか?」
「ごめん。年下の女の子の家に上がると、『ギルド』がセクハラだ何だってうるさいから」
「あ……。そうですよね。ごめんなさい」
「おやすみ」
「はい! おやすみなさい。先輩も寝てくださいね!」
「僕は残ってる仕事を片付けてから寝るよ」
「むー。それだといつまで経っても寝れませんよ?」
「ヘーキヘーキ。今日が山場だから」
「それ、昨日も言ってましたよ」
「そうだっけ?」
思わずシアンは頭をかいた。
「とにかく、ちゃんと寝てくださいね」
「ああ」
シアンはそう言い残すと、借家の階段を上がっていった。
メインはそれを見届けると、大きくあくびをして
「……今日も残業か」
普段は冒険者に溢れている大通りも、
「…………僕は良いけど、シアンさんの時間は減らしてあげたいよなぁ」
たった2人しかいない安全管理士の片割れは、山積みの仕事を片付けるべく事務所に戻るのだった。
――――――――――――――――――――
人類がそれに気がついたのは、わずか10年ほど前のこと。
今まで人類が世界の全てだと思っていたのは、世界の1割にも満たないと知った時……人類は大いに湧いた。
無数のモンスターや幾重にもしかけられたトラップを乗り越えた先に、宝物を手に入れることができる『
数々の《試練》を乗り越えることで人智を超えた“魔法”が扱えるようになる『
破壊された文明の遺産を手に入れることができる『
そして人類は至るところに拠点を作り出し、営みを生み出した。
ここはダンジョンシティ、迷都タルロウス。
無数の冒険者と……それを支える者たちで構成されている魔都である。
――――――――――――――――――――
「いやー。メンゴメンゴ。昨日は急に仕事依頼しちゃってごめんね。『攻略計画書』が必要なの忘れててさぁ」
翌朝、シアンがクランに出社するなり、待っていたかのようにクランリーダーが安全管理部門の部屋にやって来た。
「うわ、クランリーダー」
「シアンさん。リーダーに向かって『うわ』って言わないの」
昨夜は結局、家に帰ることなく仕事を仕上げたメインが死んだ目でシアンをたしなめる。
寝不足で頭が回っていないが、いつものことなので気にすることはない。
というか、気にしていると仕事が回らない。辛い。
「これが昨日、頼まれてた見積書です」
「いやぁ、メイン君のおかげだねぇ」
「そう思ってるなら給料を上げてくれても良いんじゃないですか?」
「あ、それでさ」
メインの話を唐突に打ち切って、クランリーダーは1枚の書類を差し出した。
「これ、ダンジョン攻略許可申請書なんだけど。明日までに必要なんだよね」
「え、明日!?」
目を丸くして驚いたのはシアン。
ダンジョン攻略許可申請書とは、その名の通りダンジョンに潜るためにクランが『ギルド』に提出する必要のある書類である。
ちなみにだが、これはただ攻略するだけではなくダンジョン内での“死”を無かったことに出来る神秘……『女神の泉』の許可申請も含まれている大事な書類だ。
だからこそ、シアンは苦情の声をあげた。
「ちょ、ちょっと流石に無理ですよ! まだ私たちには仕事が残ってるんですよ!?」
「そこをなんとか。ね?」
「無理です! ダンジョンに潜る日程をずらしてください!!」
「それがねぇ。もうこれ以上、日程をずらせないのよ。ほら、ダンジョンの中で出てくる魔鉱石を取引先に持っていかないといけなくてさ……」
「それもズラせばいいじゃないですか!」
「もうズラしてもらった後なんだよねぇ」
困ったよねぇと言うと、わははと笑うクランリーダー。
全くもって笑っている場合ではないのだが、これ以上彼を詰めてもしょうがないということでメインはため息を付くと、
「これで何回目ですか。そろそろ僕も怒りますよ」
相変わらずの死んだ目で書類を受け取った。
……これ、今日も徹夜かなぁ。
死んだようなメインの瞳が余計に光を失っていく。
「本当にごめんね? 今度飲みに行こうね。奢るから」
「シアンさんはお酒が飲めないんでご飯の方が助かるんですけど」
「駄目だよ! お酒の場はコミュニケーションの場! 飲めなくても参加しなくっちゃ。俺が若いころなんてそりゃあ、凄かったよ。お酒が飲めなくてもとりあえず麦酒から入って……」
「リーダー。それ、アルハラですよ」
「はぁー。いまはどこもハラスメントハラスメントってうるさいからねぇ。仕事がしづらくて困るよ」
「そうですか。あ、さっき渡した『攻略計画書』。一応チェックしてるんですけど、ミスがあるかもなんで最終チェックお願いします」
「はいはーい。まあ、シアンちゃんとメイン君の2人がチェックしてるんだから大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないかも知れないからこその、最終チェックですよ。よろしくお願いします」
「うん。分かってる分かってる。じゃ、その申請書。明日までによろしくね〜」
「嫌です」
「頼むよ〜!」
クランリーダーはそれだけ言って出て行った。
「え! どういうことですか!? 結局、書類はどうすれば良いんですか!?」
「やらないといけないね」
「……え、でも先輩は断りましたよね?」
「断ったね」
「でもやんなきゃいけないんですか!?」
「仕事だからね」
「訳が分かんないんですけど」
「社会人ってそういうもんだよ。じゃ、やろっか」
「うぐぐ……」
「今日は日をまたぐ前に帰れれば良いなぁ」
メインは諦めの声を漏らすと、書類の束に取り掛かった。
だが、それで終わらないのが中小クランの恐ろしいところである。
遅めの昼食を食べながらメインが書類作成を進めていると、再びクランリーダーが安全管理室にやってきた。
「メイン君。明日のダンジョン攻略なんだけどさ。冒険者たちに危機管理講習を受けさせたいんだけど」
「明日のいつ攻略ですか?」
「朝からだよ」
「は?」
いつもはリーダーに対して敬語を扱うメインも、これには流石に本音が漏れた。
何を言ってるんだ……?
と、メインの表情は思わず厳しいものになっていく。
だが、そんなメインのことなど気にした様子も見せずに、リーダーはにこにこと笑いながら続ける。
「大丈夫だって! 危機管理講習って言ってもギルドが出してくるチェックシートにチェック入れるだけでしょ? さくっとやっておいてよさくっと」
「……それも俺たちが?」
「だって君たち以外に文字読めるの俺だけだし。それに、俺も難しい文字は読めないし」
「じゃあリーダーがやってくださいよ」
「無理だよ。だってあれの代筆できるの安全管理士だけだもん」
「…………」
「じゃ、よろしくねー!」
それだけ言い残して、再びどこかに行ってしまった。
「は? え? また、仕事ですか?? こっちは全然手付かずなのに!?」
「あー、シアンさん。悪いんだけど、このチェックシートにチェックだけ入れてギルドに持ってってくれる? この危機管理講習シート、ダンジョンに潜る前日までに出しとかないと探索許可下りないから」
部屋から出ていったのを確認するや否や、シアンはキレた。
しかしメインは、こんなことには悪い意味で慣れきっている。
だから、ため息をつきながらシアンに4枚の書類を手渡した。
「あ、はい。それは別に良いんですけど……大丈夫なんですか? 冒険者の皆さん、危機意識のチェックしてないですよね?」
「どこいっても中小クランってこんな感じだよ? 冒険者って文字読めないし、勉強できないし。それに黙って人の話が聞けないし」
「……じゃあ、この書類は何のために?」
「さぁ」
「うー……。私やっぱり入るクラン間違えた気がしてきました。こんなことなら錬金術師の弟子にでもなるんだった……」
「錬金術師の弟子って下積みが大変なんだってね。夜2時寝の5時起きって聞いたよ」
「うがー! 楽な仕事は無いんですか!」
「冒険者にでもなる?」
「死ぬかも知れないじゃないですか!」
「『女神の泉』があるから生き返るよ」
それは最初から迷都タルロウスの中心にあった
何を隠そう。ダンジョンで死んだ人間は、その泉で完全な姿でもって復活することができる。
人類が願っても止まなかった不死が、限定的とはいえ再現されているこれを神秘と呼ばずしてなんと呼ぼう?
ただ、いかに奇跡の
これは、たった1つ。大きな欠点があって、
「全裸でですよね!? 嫌です! 死ぬのも嫌ですけど裸を色んな人に見られるのも嫌なんです!」
生き返るときは、全裸なのである。
ある学者によると、死んだあとに人体が出てくる魂を捕まえて……その魂に残っている肉体の記憶を再現するらしい。そのため、服などの肉体の記憶ではないものは再現できないのだ。
しかも泉と言ってもその広さは直径が10mにも満たない上に、男女を分けて復活なんて気の利いた性質は持っていないので、生き返るときは男女混合で素っ裸だ。
「じゃあしょうがない。頑張って働こうか」
「うぅ……。専業主婦になりたい。働かずに暮らしたい……」
「うーん。辛いなら辞めるのも手だと思うけどなぁ」
「仕事をやめたら先輩が養ってくれますか?」
「いやぁ、僕の給料でそれは無理でしょ」
「残業代出てないですもんね……」
「支払われてても無理だと思うけどね」
そういって肩をすくめるメイン。
それを見ながら、なぐり書きをするようにシアンは手元のチェックシートに書き込んでいく。
「うぅ……。都会暮らしがこんなに辛いものだとは知りませんでした……」
「シアンさんは田舎の出身だっけ?」
「そうですよ。地図にも載ってない小さい山奥の村で生まれたんです。絶対に逃げ出してやると思って、頑張って勉強したんですよ!?」
「田舎かぁ。良いよね、僕も引退したら田舎で暮らそうかな」
「辞めたほうが良いです。何にも無いですから。朝から牛を起こしたり、畑を耕したりですよ! 絶対に嫌です!!」
「そうかなぁ? 平凡そうで良いと思うけど」
「3日で飽きますよ」
「僕のささやかな夢を壊さないでよ」
「それと先輩。こんなブラッククランにいたら、引退する前に死にますよ」
思わずメインは書類から視線をあげて、シアンを見た。
「……女神の泉で生き返らないかな」
「あれで生き返るのはダンジョンで死んだ人だけですよね?」
「それは困ったね。あ、チェックが終わったら貸してね。確認するから」
「要りますか? チェックつけるだけですよ?」
メインは頭をかくと、シアンからチェックシートを受け取った。
「まだ君は新人だからね。君の仕事の責任は僕にある。だから、確認もちゃんとしておきたいんだ」
「昨日の攻略計画表はほとんど見てなかったですよね?」
「あれはリーダーも見るからね」
メインはそういうと、「うん」と大きく頷いた。
「これで問題は無いから、ギルドに提出しておいて」
「分かりました。はぁ……。これじゃあ、ただの雑用ですよ」
「どうしても花形は冒険者になっちゃうからねぇ」
メインは意気消沈したままギルドに向かうシアンの背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます