6 ガンナーとキノコ名人

 今日はアレンじいさんと一緒に行動している。

 特に意味があるわけではないが、キノコの勉強をしようと思ったのだ。


「キノコの勉強のために、一緒に森へ行きたいんだ」

「いいぞぉ」

「ありがとうございます」

「よろしく、お願いしますね、おじいちゃん」

「ほほほ、トム坊だけでなくてエルナちゃんもいて、かわええのぉ」

「もうおじいちゃんったら」

「その膨らみかけのおっぱい。若い青い果実。たまらんなぁ」

「もう、やめてよー」

「おほほほ」


 とまあエルナのおっぱいをじっと見つめるアレンじいさん。

 ふむ。このじいさんもエルナのおっぱいを愛好する仲間だったとは。

 さすが小さなキノコを森の中でも見つけるだけはある。

 キノコハンターの名は伊達ではないようだ。


 エルナがさすがに胸を両手で隠してガードをすると、アレンじいさんは残念そうに変な顔をした。


 村の中を進んで北門に到着した。


「トム、今日はアレンじいさんと一緒か」

「ああ、ちょっとキノコの勉強をな」

「なるほど。肉だけでなくて、キノコまで採るつもりなのか」

「まぁ、見つけたらついでにな。有名なキノコだけでも見分けや生えている場所の見当がつけば、便利だ」

「そうだな。頑張ってこい」

「おおっ。あ、そうだ。ほい、ジャーキー」

「ありがとうトム」


 こうして門を通過する。

 トムじいさんは道を外れて塀沿いに進んだ。


「まずは、これを見せてやるかのぉ」

「なんですか」

「見てからの、お、た、の、し、み☆」

「まったく、わかったわかった」


 塀のすぐ外に、普通なら塀の内側へ建てるはずの小屋があった。


「ほれ、これがキノコ小屋じゃよ。栽培じゃよ」

「キノコ小屋。へぇ、栽培していたんですね」

「うむ」


 そういって小屋の中に入る。

 中にはクヌギの木の丸太だろうか。

 じいさんによると榾木ほたぎというらしいが、それがずらっと並んでいた。

 その丸太からキノコがニョキニョキ顔を出している。

 奥の方の新しい丸太はまだのようでそこだけキノコが生えていない。


「これがシイタケじゃな」

「シイタケ。たしかによくいただきますね」

「じゃろ。天然物が手に入らないときは、このキノコとお肉を交換じゃ。わしだってお肉、食べたいからの」

「ふむぅ」


 なるほど。「今日はキノコはない帰れ」などと言われたことがないのはそういう理由がちゃんとあったのだ。


「なるほど、勉強になりました」

「秘密その一じゃの。では森へ行こうか」

「はい」


 そう言って森の中を適当に歩いていく。

 いや素人には適当に見えるだけで、実際には獣道がちゃんとある。

 やぶの中をやみくもに進むのは実は難しい。


「このブナの木」

「あああ、おじいちゃん、これナメコ、ナメコですよね?」

「そうだエルナちゃん。採ってみろ」

「はい」


 エルナが天然ナメコを収穫する。


「えへへ、ナメコ採れました。ブイブイ」

「ところでエルナちゃんはトム坊のキノコはもう食べたのかい?」

「え、どういう意味なんです?」

「あれ分からんか。あんまり進んでおらんのじゃな」


 アレンじいさん、ヤメレ。

 俺にそんな甲斐性があるわけなかろう。

 まだ俺たちは清い関係なんですよ。お子様なんす。


 今までそれほどキノコを注意して見て歩かなかったから、その辺にどれくらい生えているか知らなかった。


「ほら、これもキノコ」

「わぁぁ」


 茶色いキノコだ。名前は不明。


「ワシも名前は知らないが食える」

「それって大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫じゃよ」


 けっこう怪しいもんだ。

 とにかくキノコを採ることができた。


「アレンじい、獣やモンスターに襲われることは?」

「たまにあるぞ」

「あるんだ」

「この剣でなんとかしておる」


 アレンじいさんの腰には年季が入ったショートソードがぶら下がっていた。

 装飾もされていて高級品だと分かる。

 かなりの業物に違いなかった。


 ただのキノコ採りだと油断してはいけない。

 ソロで森に入りゴブリンの集団などに遭遇しても対処できるだけの技量があるのだ。


「マジックバッグは?」

「あるぞ。あまり大きくはないが」


 そういって、腰をポンポンと叩いた。

 確かに小さめのマジックバッグも剣の反対側の腰に吊るされていた。

 ふむ。


「シイタケなどを干して町にも出しておる」

「そうなんですか」

「うむ。乾燥シイタケなどは出汁が出るから人気じゃの」

「知らなかったです」

「王都までは行かんのだろうな。イグニスどまりだろう」

「なるほど」


 イグニスはひとつ北にある隣町だ。

 俺が弾を買ったりしている町でもある。


「まあこんなもんじゃろ。ええか?」

「はい、ありがとうございました」

「いいか。暗くなる前に村へ帰る。安全第一じゃな」

「はいっ」


 俺たちは言われた通り、夕方には村へ戻った。


 今日も干肉、野菜、キノコの入ったスープを食べる。

 このキノコがこのように採取されたものだと思うと感慨深い。

 出汁が出るため、キノコのある物とないものでは全然旨味が違う。


 王都ではキノコがほぼ手に入らないか非常に高価なため、味が薄く感じた。

 この村は生活は質素だけど贅沢な食事ができると言ってもいい。

 塊肉を丸ごと食べるみたいな贅沢はできないけど、そういう貴族じみた贅沢とは異なる。

 美味いもんが食えるという意味だ。


 アレンじいさんのキノコに感謝して、今日も一日が終わった。

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