5 ガンナーと対人戦

「今日もお客さんは少なめ、結構、結構」

「そうだな」


 槍に体重をかけて休憩する。

 隣のクエも同じようにやっている。長時間立っていられる秘訣だ。

 さて門番の仕事をしているときは俺も槍装備だ。

 ライフルは通常、人間に対しては使用しない。当たれば人間だって死亡するので十分な威力はある。

 戦争に使おうと考える者もいて、王国には銃騎兵の実験部隊もいる。


 しかしライフルを使用するには、構えて、魔力を練り、狙って発射するという手順がいる。

 弓と同じくらいの手間ではあるが、弾の値段は実は矢よりも高い。

 これは錬金術で作られるからだ。

 そして魔力を練ることができるのは、実は一部の人に限られる。


 俺は冒険者上がりで簡単な身体強化などもできる。だから魔力を練ることもたまたま可能だった。

 だから問題がなかったのだが、実は魔力を練ってかつある程度以上の精度で狙える人材はそれほど多くはない。


 そして銃をパカッと開けて空薬莢からやっきょうを取り出し、次弾を装填して蓋を閉じる。

 いうだけなら簡単だが、この魔法の弾、非常にデリケートで魔力が漏れている人が触ると暴発する危険もある。

 思ったより厄介だった。

 そのため慎重に扱う必要がある。


 とまあ一連の作業をすると連射は無理で、思ったより時間を取られる。

 プロなら弓のほうが連射能力が高い。


 だからゴブリンの群れなどに無力で、あまり銃というものは好事家のおもちゃとさえ言われる所以ゆえんだ。


 ただし連装式の銃はあり、三連装までなら俺もこの目で見たことがある。

 確かに一度に三発撃てるけれど、それ以上撃つなら三倍の時間かけて三発詰める必要があるので、長時間の戦闘では特に意味をなさなかった。

 そのためやはり結論としてあまり戦争向きではないということだ。


 ただそれでも殺傷能力そのものの高さは評価されることがある。

 盗賊退治でも後方の魔術師などを狙い撃てるため、重宝されることが稀にあった。


「おーい、トムさーん」

「おぉ、エルナ!」


 村の中からエルナがスキップでやってくる。

 お迎えだ。

 お昼の休憩時間だった。


「お前は嫁さんがいていいな」

「まだ嫁じゃない」

「手作り弁当持参だろ、どこが違うよ」

「まあな」


 クエを適当にあしらってエルナを迎える。


「いただきます」

「いただきます」


 ご丁寧にエルナの分まで弁当になっている。

 今日はレタスとマヨネーズとシカジャーキーのサンドイッチだ。


「ん、うまい」

「でしょぉ」


 エルナも鼻高々。超ご機嫌だ。

 俺も飯が美味いからとてもうれしい。


 美味しいお昼を食べたら午後の門番だ。

 もう一人の専属門番のガイは俺たちの後、夜警に回ることになっている。


「なあトム」

「なんだクエ?」

「あの百メートル先の標識、狙えるか?」

「狙えるけど?」

「すげーな」

「ハンターならそれくらいできないとご飯食べられないぞ、マジで」

「マジか」

「ああ」


 ガイがマジかっていう顔をしている。


「試しに狙ってみてくれないか」

「いいのか看板吹き飛ばして」

「ああ、明日、新しいのに交換する予定だから」

「それなら」


 百メートル先の看板は村との距離を測るためのものだ。

 二十五、五十、七十五メールと等間隔で設置されている。

 だいぶ古くてボロいので、新しくするらしい。


「じゃあいくぞ」

「おうよ」


 俺はアイテムボックスから魔導ライフルを取り出して弾を詰める。

 普段は暴発防止に弾を抜いてある。


 そして構える。


 バーン、ドンッ。


 発射音、それから命中音が聞こえた。

 一番遠い百メートル看板が吹き飛んで空を舞ったのが見える。


「すげーなおい」

「まあね。そりゃあ獣向けですもん」

「そうだったな。いまいち実感湧かなかったけど、なるほどな」


 二人で百メートル先を眺める。

 うんうん、我ながらいいショットだった。

 エルナにも見せておけばよかった。自慢できる。


 森の中ではさすがに百メートルも飛ばすことがほとんどない。

 俺の腕は落ちていないようだ。

 あの血も涙もない冒険者ギルドでの射撃訓練はきつかった。


「そうそうトム。東ルートの盗賊なんだがな」

「ん? 関与しないんじゃなかったか」

「そうだったんだが、最近また被害が出てな。もしかしたら村を上げて盗賊退治しないといけないらしい」

「やだな」

「だよな」

「俺は人間は撃ちたくないんだがな」

「俺だって人間相手に槍なんて使いたかないよ」


 二人の意見は一致だ。

 傍観する。なるべく人間は殺したくない。


「まあ殺さず無力化するという手もなくはないが」

「槍ならそうだろうな。銃は無理だな。手でも足でも胴体でも吹っ飛んじまうから」

「だろうな、お前も槍にしたら」

「ガンナーが槍で戦えるかよ」

「門番はしてるじゃんか」

「これはいいの、別に平和だし」

「だな」


 二人で高級ジャーキーを口に放り込んでもぐもぐする。

 自画自賛だがうちの高級ジャーキーはうまい。

 二級品も旨味はそれなりにある。ただコショウは効いていなくて塩辛い。

 それが好きという人ももちろんいる。


 なるべくならこの平和をずっと謳歌おうかしていたい。


「王都の騎士団は?」

「今なんか団長派と副団長派で揉めてるんだと」

「やだねぇ」

「だな。派遣したいのが団長派。副団長は領主の騎士団にやらせたいらしい」

「なんでまた」

「副団長の親戚なんだ領主様。で最近あまり功績とかないから」

「花を持たせたい、か」

「うむ」


 あほらし。

 これだから中央政府は嫌われるんだ。

 王国制に批難なんかしようもないが、あきれている人は多い。


「ということで回り回ってどこも動かず、周辺の村はピリピリしてる。お前んちがやれ、と明日にも言われそうな気配だ」

「やだねぇ」

「だな」


 俺たちは再びジャーキーをもぐもぐする。

 ただこうしていたいだけなんだがな。

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