7 商人のミニヒューマンの少女

「こんちはー、ミリアリアです」

「お、ミリアリアちゃん、こんにちは」


 ピンク髪を揺らして現れたのは百三十センチくらいの少女だった。

 この子は十六歳だったと思う。

 背が低いのではなくミニヒューマンという小人族だった。


「なにか欲しいものは?」

「そうだな、俺のパンツ」

「あいよ」


 アイテムボックスをごそごそとして俺向けのパンツを出してくれる。


「白でいいか?」

「いいよ。えっと三枚」


 普通の綿の白い下着だ。なんということはない。

 今穿いているものがボロくなってきたので新調するのだ。


「まいどあり」


 白いパンツを三つ出してくれる。

 料金を支払って交換する。


 こういう時、すべての商品をまとめて払うのではなく一品ないし数品ごとに会計をする。

 合計を計算できない人がいるためだ。

 もちろん、こまごましすぎたものは合計することもある。


 この少女は俺たちのようにアイテムボックス持ちだった。

 それもワゴン馬車一台分くらい入る。

 さらに軽馬車級のマジックバッグを四つ所有しているらしい。


 あらゆる生活雑貨や食料を満載している。

 自分が思いつくほしいものはほぼ彼女から買える。


「トムさん。どうしたそんなじっと見て」

「いやバッグが大容量で羨ましいなと」

「まあね。儲けをほとんどバッグを買うのに投資したからね」

「だよな」


 そしてミニユニコーンという精霊馬の一種に乗っている。

 白くて額に一本の角がある。

 こいつ、めちゃくちゃ足が速い。まるで空を飛ぶように走る。

 ただし小型なのでこれに乗れるのは処女の少女だけと決まっている。

 非処女と男子は乗せてくれない。振り落とされるし、言うことを聞かないのだ。


 軽い少女を乗せたミニユニコーンは地上最速と言われている。

 もちろんワイバーンやドラゴンとくれば別だ。


 処女はそうでない人と違い体内にある魔力が非常に澄んでいる。

 ミニユニコーンは体から放出されるこのわずかな魔力を嗅ぎ取っているため、確実に判別できるそうだ。

 まあ幼い少女が性行為をするとは思えないので、乗れる体型の子はまず乗れる。


「お前らもうヤッたか? ミニユニコーンに乗せてやろうか? あはは」

「バカいうなよ。ヤッてない」

「え、そうなの。まじかよ。清いご関係ですこと」


 まったく口が悪い。

 処女の癖にいっちょ前の商人のように、下世話は話もする。

 会話がしやすくて助かるし気に入っているからいいが、令嬢とはいいがたい。


 この子、イグニス町にある男爵家の二女様で、この辺の村をすべて回って売買をしているのだ。

 幼いころイグニス町のすぐ近くにある精霊の泉で『精霊の加護』を受けた。

 精霊や妖精に好かれるのかミニユニコーンと巡り会って、こうして商売をしている。

 この村は街道沿いなので他にも商人がくる。

 もっと奥まった突き当りの村などは、ミリアリアちゃん以外ほとんど行商人すらこない村もある。

 彼女はこの周辺の村の生命線といえる。


 ぶっちゃけ彼女はマジックバッグとミニユニコーンを全部うっぱらえば一生遊んで暮らせる。

 すでにそれだけの財力がある。

 村々を支えているという責任感から、善意で商売を続けてくれている。

 マジックバッグの一つには、秋に収穫した小麦が詰まっているという噂だった。

 少しずつ売ってはいるが、備蓄しているらしい。

 なんでも冬と飢饉に備えているとかなんとか。


 とにかく彼女の口は俗っぽいが、その精神性は聖女のように善性で清い。

 俺が見習いたい人物の一人だ。


「どうした」

「いえ、聖女様みたいだなって」

「そんなこというなよ。恥ずかしいだろ、トムさん」

「ふんっ」

「というかトムさん。私のこと好きだったんじゃないの? 他の女の子捕まえたりして」

「ごほっ、ごほごほ、俺が好きだとか誰から聞いた」

「え、門番のガイから」

「あんにゃろ」

「いいじゃん。なになに本当は私のこと好きだったの? 同い年だもんね」

「まあな、いいだろ別に。誰を好きでも」

「私だって、ちょっとはトムさんのこと好きだったのに」

「まじか」

「本当」


 く、マジか。

 もっとはやく告白しておけば。

 俺も男爵令嬢の恋人になっていたかもしれないとは。

 でもエルナもいい子だしな。放っては置けない。

 ミリアリアちゃんもいい子すぎてな。こちらもとても放ってはおけないのだが。


「薬ビンあるかな?」

「薬ビン? 空ビンか? あるにはあるけど少しだけだよ」

「それ全部ください。ちょっと在庫が減ってきて」

「あいよ」


 ポーション瓶を出してくれる。


「六号魔力弾あるかな」

「あるわけないだろ。そんな危険物」

「だよな」


 残念ながら彼女からも買えないものがある。

 それが魔導ライフルの魔力弾だ。

 前にも話したと思うが、魔力弾は魔力に反応して暴発することがある。

 彼女みたいに強い純粋な魔力が漏れてる子が一番危ないので、彼女には扱えない。

 手でアイテムボックスから取りだしたりなんてしたら、それだけで大変危険だ。


「ミリアリアちゃんから魔力弾が買えたら俺は町へ行かなくていいんだけどね」

「それは、ぐっ……すまない」


 落ち込んでしまった。

 素直なのだ。目には薄っすら涙を浮かべている。

 ちょっと悪い気もしたが、こういう顔もかわいい。


「じゃあまた」

「おう、またな」

「ばいばい」


 颯爽さっそうと去っていく。

 その小さな後ろ姿はとても大きなものを背負っている。


「頑張れよ……」


 とうてい聞こえていないだろうが、俺はそっと応援をした。

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