第20話 君主の咆哮
対ショックと叫ばれても、いきなり対ショック姿勢など取れはしない。ルドヴィカなどは普通に頭を下にして垂直落下している。
一応、彼女は頭に手をやっているが、アレは頭を守るための行動ではない。おそらく、またも俺への攻撃を許してしまったことに対するショックで頭を抱えているのだろう。
このまま頭を地面に打ちつけ、死んで詫びそうな勢いだ。
一方、俺も「対ショックと叫ぶより普通に伏せろとか危ないとか叫んだ方が良かっただろうか?」などと先ほど自分が取った行動を反省しながら垂直落下している。
間もなく地面にクラッシュする予定だが、取り急ぎ、スキルウィンドウを表示。
俺やルドヴィカなら高高度から地面に叩きつけられたくらいで死にはしないが、プリセラが無事で済むとは限らない。
何か策を打つべきだ。
「【
説明文を読む限り、これは風を発生させて操る魔術のようなのだが、ただの風属性の魔術だし、どうにも魔王にしては物足りない。
「とは言え、背に腹は変えられん」
あまりにも地味過ぎるものの、このスキルが現状を打開するのに最も適している。
そう考え、スキルを習得。お試しのためスキルLvは1。そして、地面に向かって即発動。
ブワリと風が巻き起こり、俺とプリセラは減速していく。
スっと音もなく地に着地した時には、このスキルの有効な使い道に気が付いていた。
「あれ? もしかして、これって上手く使えば空も飛べるんじゃないか?」
せっかくハーピー飛行船を考案したのに、早速いらなくなりそうだ。
ちなみに、すでにルドヴィカは地面に激突して大きなクレーターを作っていた。
「プリセラ、大丈夫か? ……って、気絶しちゃってる」
プリセラは落下のショックで気絶してしまったみたいだ。
一方、ルドヴィカはクレーターの中央で寝転がったまま顔をコチラに向けている。
「……魔王様。……ご無事ですか? 私がついていながら、またもこのようなことに……。申し訳ございません」
「いや『ご無事ですか?』は俺のセリフだよ。ルドヴィカは頑丈だな」
「この程度、大したことではありません。ですが、ほんの少しだけ損傷を受けましたので寝たまま失礼いたします」
さすがのルドヴィカも落下ダメージは喰らうらしい。ほんの少しだけ、なんて言ってはいるが、起き上がってこないところを見るに、そこそこのダメージを受けているんだろう。
「少し休んでていいぞ。それにしても今の攻撃は何だ? 一瞬だけ空間が歪んだような気がしたが」
「風系統に属する魔術でしょうか……。確実なことはわかりかねます」
そうこうしているうちにハーピーたちが大騒ぎでコチラに近づいてきた。
「私たちは何もしてないハピ! いきなり荷台に繋いであった鎖が切れたハピよ〜!」
彼女たちの言葉を受け、検分してみれば、確かに荷台と彼女たちの脚を繋いであった鎖がスパッと切れていた。重みで千切れたという感じではなく、鋭利な何かで切断されたような断面だ。
「まったく敵が多いな、魔王は」
「安心してください。今回、魔王様に刃を向けたものは必ず見つけ出して私が処刑いたしますので」
「地面に寝っ転がったまま言われても、あまり説得力を感じないな」
「か、返す言葉もありません……」
「冗談だ。そう
ともかく〝ドワーフを見つけて終わり〟とはならなそうな塩梅であった。
◇◆◇
プリセラをおぶってメイヴィスの屋敷へ。屋敷の玄関でルドヴィカが執事に二、三言告げると、すぐに俺たちは応接間に通された。
良い香りのする紅茶のような飲み物を飲みながら待っていると、しばらくして屋敷の主人が俺たちの前に姿を現した。
「この飲み物、なかなか美味いな。どこで売ってるんだ?」
旧魔王っぽく挨拶せずに、いきなり関係のない話をしてみた。この感じで合っているかはわからないが、メイヴィスと旧魔王の関係を考えると挨拶なぞは不要にも思える。
「どこにも売ってねえよ。それはウチの庭で採れたハーブを煮出して作った茶だ。もちろん俺の趣味じゃないぞ? 娘の趣味だ」
どうやらメイヴィスには息子だけでなく娘もいるそうだ。
彼やマイセンの顔から想像するに、きっと娘も相当イカつい見た目なんだろう。
「良い趣味だな。良ければ帰りに貰って帰っていいか?」
「それは好きにすりゃいいが、娘に許可を取ってからにしてくれ。勝手に庭をイジるとアイツは怒るからな」
「そうしよう。で、要件は書状で大体はわかってると思うが、例のドワーフはどの辺りに住んでいるんだ?」
「アレは少しわかりづらいところに住んでるからな。口で説明するのも何だ。誰かに案内させよう」
さすがはメイヴィスだ。話が早くて良い。
「恩に着る」
「そんなもん着るな。……だがな、あのドワーフは面倒くせーぞ。前に俺も仕事を頼もうかと思って使者を送ったんだが、これがどうにもなぁ……」
この様子だと断られたのだろう。領内に住んでおいて領主の依頼を断るとは、そのドワーフも肝が座っている。
「ルドヴィカから変わり者だとは聞いている」
「変わり者なんてもんじゃねえな。一言で言えば偏屈ってやつだ。相手が魔王だからって
「ああ、せいぜい努力する」
だいたい話が終わったところで、部屋のドアが静かにノックされた。
ドアが開かれれば、そこには花のように可憐な乙女。髪は長く金髪、背も低く、身体は折れそうなほど細い。だからと言って血色は悪くはなく健康的な肌艶。
おおむねメイヴィスと正反対の性質を持つ少女と言える。
「お久しぶりです、魔王様ー!」
その少女は部屋に入ってくるや否や、俺にガバリと抱きついてきた。
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