第13話 諸侯会議
魔王城には、吹き抜けになった殺風景な部屋がある。普段は何もないその部屋に大きな机と椅子が何脚も運び込まれて、今やその場は会議室のようになったいた。
俺は今、この殺風景な部屋で諸侯会議なるものに参加している。
参加者たちは多種多様で、ダークエルフやタイタン、スライムのような無形生物までいる。
当たり前のように諸侯会議などと言ったが、そもそも諸侯会議とは何なのか?
それを説明するためには、まず魔王軍とは何なのか、を説明しなければならない。
魔王軍とは、魔王を頂点とする縦の組織ではなく、有力な魔族たちからなる横の組織、つまり寄合所帯なのである。
ゆえに、一枚岩というワケにもいかず、一定の領地を支配している諸侯それぞれが、それぞれの思惑に従って動いている。
そのバラバラの考えを持つ彼らが意見を擦り合わせる場が諸侯会議なのである。
そして、魔王とは、この会議から選出される代表者に過ぎない。俺が鶴の一声で終戦へと持ち込むことが出来ない理由もここにある。
「ただ、攻め込むな、と言われましてもな。いったい魔王殿は何を考えておるのです? 人間なぞ、さっさと根絶やしにしてやれば良いものを。……僅かばかり理解が出来ませんな」
用意された椅子に深く座り、そう言ったのは顔に深いシワを持つ年老いた男だ。
真っ青な顔をしているが、健康を害しているワケではない。このゾボエダという魔族はオーガ族であり、生まれた時から真っ青らしい。
「魔王様は、その時期ではないとおっしゃっているだけだ。その真意がわからんか?」
俺に代わり答えたのはアラベラタ。魔王軍でルドヴィカとともに副官を務めている、いわば魔王の右腕といえる存在だ。右腕だけあって、先ほどからずっと俺の考えを代弁してくれている。
お陰で俺は腕を組んで会議の様子を眺めていれば良いので助かっている。
「つまり時期尚早だと言いたいのか? まったく今更なにを言っているのだか。……まさか腑抜けたか?」
「ザボエダ殿、言葉が過ぎるぞ。ここ最近、勇者なるものが各地で暴れ回っていると聞いている。なんでも手薄になっていた南の砦が勇者に落とされたとか。まずは、そちらの対処を優先すべきであろう。魔王殿も、そう言いたいのではないか?」
ザボエダとアラベラタが睨み合う中、間に入ったのは
彼はメイヴィスというらしいのだが、会議が始まってからコッチ、俺の肩を持つような意見ばかり言っている。俺自身は今日初めて会ったが、この様子だと旧魔王が彼と心を通じ合わせていたのだろう。
「そんなところだ。連合軍の動きだけに目を奪われていては足元を掬われかねない。今は勇者の動向に気を配りつつ、地固めをするべき時だろう。それに我々に味方している人間もいるのだから、人間を根絶やしにするなどと軽々しく言うものではない」
メイヴィスのおかげで何とか対面を取り繕うことが出来た。ザボエダなどはフンっと鼻で笑ってはいたが、罷免決議を行われる事態は避けられそうだ。
平和になった後ならまだしも、今、魔王を下されるワケにはいかない。敵を皆殺しにしてしまうような者が俺の後任になる可能性もあるのだ。そうなっては困る。
「では、会議を終了いたいます。皆様、本日は、ご足労いただきありがとうございました」
そのあと、しばらく会議が続き、ルドヴィカが終わりの言葉を述べて会議は終了した。ゾロゾロと周りの者たちが退出していく。そんな中、俺はメイヴィスに声を掛けていた。
「今日はありがとう。正直、助かった」
旧魔王が彼と良い関係を築いていたのなら俺もその関係を引き継ぐべきだと考えた次第だ。
「気にするな。俺は自分の意見を言ったまでのこと。それよりお前が俺に感謝するなんて珍しいな」
どうやら旧魔王は助けられたとしても感謝の言葉を口にするようなヤツではなかったみたいだ。
「いや、たまには俺だって感謝くらいするさ」
「魔王が俺に感謝か……。ハッハッハ。今日は雪でも降るのか?」
ふと空を見上げる。青空が目に入った。雪どころか雨すら降らないだろう。
「降らないだろうな。今日は温かい」
もちろん彼の言葉が皮肉であることはわかっていたが、俺はそんな風に答えていた。
彼と旧魔王の関係性が判然としないため、探り探りの返答だ。
「相変わらずお前は冗談の通じないヤツだな。まぁ、いい。今日のところは素直に感謝されてやる。だが、もうやめてくれ。背中の辺りがムズムズする」
そう言うとメイヴィスは背中をポリポリと掻きながら退出していった。
最後に残った俺も副官たちを引き連れ部屋を後にすれば、しばらく行った先で俺を真っ直ぐに見つめる男と出会った。
「魔王。いつまでも調子に乗っていられると思うなよ? 俺がお前を追い落とし、必ずオヤジを魔王にしてみせる。必ずだ! せいぜい首を洗って待っておけっ」
男はそれだけ言うと俺の横を通り、去っていった。
ルドヴィカが睨みつけるだけで何も言わなかったところを見るに、彼は立場の高い魔族なんだろう。低位の魔族であれば、この場でルドヴィカの剣のサビになっていたはずだ。
「なに? 今の誰?」
「忘れてしまったんですか? メイヴィス殿のご子息、マイセン殿ではないですか……」
マイセンとやらは俺と顔見知りらしい。流石のアラベラタも少し呆れ顔だ。
「あー、はいはい。マイセンね。それにしても親のメイヴィスと違って全く交戦的なヤツだ」
「なに、苦労も知らぬボンボンがイキがっているだけです。もし牙を剥くようであれば、私が処刑いたしますので、魔王様が気に止める必要はございません」
「ルドヴィカ……。アイツを処刑したら俺とメイヴィスの仲に亀裂が走るだろ」
「その時は絶対にバレないよう配慮します。ご安心ください」
「そういう問題じゃないんだけど……」
マイセンが俺に牙を剥かないことを祈ろう。彼の言動を思い返すに祈ったところで無駄な気はするが……。
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