第2話 魔王
魔王を倒したあと、俺はその場にへたり込んでいた。未だ理解が追いついていない。
何故、魔王が一人でこんなところに現れた?
どうして瀕死の状態だったんだ?
ここで考えたところで答えの出ない問い。しばらくして、そのことに気付いた俺は森を出ることにした。
魔王の首を落とし、持っていた袋に詰める。残念ながら、戦士と槍術士の亡骸はこの場に置いていくしかない。二人の亡骸を引きずって戻れるほど、この森の魔物たちは甘くないのだ。
「せめて形見だけでも持って帰ってやるか」
戦士からは指輪を、そして、槍術士からはペンダントを選んで、ポケットに突っ込むと、俺は【
「……あれ?」
発動させたはずなのに、スキルが発動していない……。こんなことは今までの人生で一度たりともなく、大いに慌ててしまう。
MP切れ? いや、そんなわけはない。ついさっきまでMPは満タンだったはず。
確認のためステータスウィンドウを表示させる。
Name;エルク
Job;
「……んな馬鹿な」
俺は再び地面にへたり込んでしまっていた。いつの間にかJobが『
念のためスキルウィンドウも見てみれば、慣れ親しんだ暗殺者のスキルではなく、見たこともないスキルがずらりと並んでいた。
立て続きに起きた理解不可能な出来事に気が動転。なるほど、だから【
日々、暗殺者としての職務を粛々とこなしていたはずの俺が完全に冷静さを失っていた。
だからだろう、いつの間に森の魔物たちに囲まれていることにも気が付けなかった。
「……せっかく魔王を討伐したってのに、ここで俺はお終いか」
言葉とは裏腹に俺は立ち上がり、二本の短刀を構える。戦闘となれば、むしろ冷静になれるのが俺だ。この世界で戦い続けてきた日々が俺をそういった性質に変えてくれたんだろう。
「ザッと数えて気配は二十体。こりゃ、無理ゲーだな」
血の匂いに魔物たちが集まってきてしまったと見える。ここまで数が多いと、そもそも万全のPTでも逃げ切れないだろう。
この森で、この数となるとゴールドクラスの冒険者PTでも凌げるかどうか……。
「せめて、あの女がいれば少しは違ったんだが」
などと呟いたところで、真っ先に逃げた僧侶が戻ってくることはない。別にハナから期待もしていないが、現実はそんなもんだ。
だからといって諦めて魔物たちに食われてやる俺ではない。
一人で生き延びる方法を探すのだ。
たが、魔物たちはジリジリと距離を詰めてきている。考える時間はそれほど残されてはいないだろう。
結局、俺が選んだ方法は『
スキルの説明を悠長に読んでいる暇はなく、目についた攻撃スキルを急ぎ習得。そして、即座に発動。
【
頼む、効いてくれ!
願いを捧げれば、古代文字と幾何学模様の混ざり合った魔法陣が地面に現れた。魔方陣の外周に更に魔法陣が描かれ、地面を覆い尽くしていく。俺を中心に半径二十メートルほどが紫色をした魔法陣の光で輝いていた。
「……なっ」
そして、突如、地面は暗黒に変わり、まるで底なし沼のように全てを飲み込み始めた。魔物だけではなく、森の木々、戦士たちの亡骸すらも飲み込む。全てが闇に沈んでいく。
全ては一瞬の出来事。魔法陣が消えた時、その場に存在していたのは俺だけであった。
【
「なんだよ、この魔術……。ブッ壊れ性能じゃないか……。まさか、全てのスキルがこの威力じゃないよな?」
三度、俺は地面にへたり込んでしまった。腰が抜けたようで立ち上がれそうにない。自分の放った魔術に驚いて腰を抜かしてしまうとは情けない話だ。
……だが、生き延びることは出来た。
「こんなところにいらしたのですか、魔王様。あちこち探してしまいましたよ」
突如、背後から低く響く男の声。人の声に安堵し、振り返る。
そこに立っていたのは、貴族のような格好をした長身の男であった。
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