転職したらラスボスでした。〜侵略よりも身の安全を優先する俺は何故か皆から慕われています。
九夏なごむ
第1話 モブの夢
〈ラーマスフィアー〉というMMORPGゲームの世界へ転生を果たし、早二十数年。自身が『プレイヤブルキャラ』ではなく、ただのモブであると気付くのに十分すぎるほどの時間が経った。
実際のところ、十歳を過ぎた頃に自身が『その他大勢』であると何となく気づいていたが、どうしても納得がいかず、ゲームの知識を駆使して修練に修練を重ねてしまった。
けれど、やはりモブはモブ。
ゲーム知識のおかげで確かに強くなったのだが、『プレイヤブルキャラ』に発生するべきイベントが俺に起きる気配もなく、強いモブになるのが関の山だった。
悲しきかな、とどのつまりは無駄な努力。
俺が魔王軍の目を欺くための囮役として立候補したのも、その無駄な努力の一貫と言える。
主人公になれないのなら違う形で世界に貢献しよう、と考えたのだ。
そんなわけで、現在、俺はPTを組んで王国から西に遥か離れた場所にある森を徘徊している。
PTメンバーは槍術士、戦士、魔術師、僧侶、そして、偽勇者役の俺。
もちろん目的は、本物の勇者様が自由に行動できるように魔王軍の目を引き付けておくことだ。モブに相応しい役目だろう。
そして、魔物を倒しながら森をウロウロすること数時間、俺の【
「皆、戦闘体制を取ってくれ」
「勇者殿。敵は何匹でしょうか?」
筋骨隆々の戦士が問う。無論、勇者とは俺を指している。周りに勇者PTであることを印象付けるため俺は常に皆からそう呼ばれているのだ。
「一匹だな。もしかしたら一人かもしれんが」
俺の【気配探知】でわかるのは数だけ。レベルを上げれば、事細かに把握することができるのだが、残念ながら、補助系スキルにポイントを割く余裕は俺にない。
「勇者様。提案なんですけど、逃げません? 私は、そろそろ疲れてきました。それに、こんなところで頑張ったって誰も褒めてくれませんよ? 所詮、私たちは囮。誰も私たちのことなんて見ていませんし、気にしてもいません」
敵が接近してきているというのに、意気地のないことを言い出したのは祭服姿の女だ。この聖職者がパーティーの要である回復役なのだから不安になってくる。
彼らとは六ヶ月近く一緒に旅をしているのだが、どうにも、この女とだけは打ち解けられる気がしない。
他の者たちは皆、魔王の討伐ひいては世界平和を願っているはずなのだが、この女からはそういうモノが見えてこないのだ。
何故このパーティーにいるのかと疑問にすら思う。
大方、金に目が眩んだだけなのだろう。なにせ、このクエストは危険が多いだけあって報酬も破格だ。聖職者のくせに金に執着するとは呆れてものも言えない。
「いいんだよ、王国の奴らに見てもらえなくたって。俺たちの目的は魔王軍の目を逸らすことなんだから。……っと、そろそろ敵が来るぞ」
前衛に槍術士と戦士、後衛に魔術師と僧侶、そして、その間に俺という慣れ親しんだ布陣を組み、俺たちは森の奥から来る何かに備えた。
◆◇◆
「なんで魔王がこんなところに……」
目の前には今にも倒れ伏しそうなほど衰弱した魔王がいた。
頭から生えた金色のツノは半分ほど砕け、服もズタボロ。本来の威厳は見る影もない。
だが、瀕死であっても魔王は魔王。容易く倒せるはずもない。むしろ俺たち如きが敵う相手ではないだろう。
というか、すでに俺たちのパーティーは瓦解している。それも接敵から僅か数秒で、だ。
戦士は開幕に放たれた敵の雷撃で即死。それを見た僧侶の女は泣き叫びながら逃走。
元がゲームの世界だからといって、拠点に戻ってやり直し、なんて都合の良い話はなく、死んでしまった戦士が起き上がることは二度とない。
俺たちは熟練の冒険者と言っても差し支えないはずなのだが、それでも魔王と俺たちの間には圧倒的な力の差があるのだ。
「魔王? へぇー、あれが魔王か……。勇者さんよ。こりゃ、もしかするとツキが回ってきたんじゃねぇか? 死にかけのアレをキッチリ殺すだけで俺たちゃ英雄だ」
パーティーが瓦解しているというのに、槍術士が眼前の敵を睨み、薄く笑う。
「ツキが回ってきた? 馬鹿を言え。最悪の運気だろ。いきなり登場するにしても、せめて魔王軍幹部とかにしておいてくれよ」
こんなことならLukにもステータスポイントを振っておくべきだった、などと後悔したところで遅い。
「ᛁᛞᛖᛃᛟᚲᚨᛗᛁᚾᛟᛁᚲᚨᛉᚢᛏᛁ」
魔王の詠唱に反応して魔法陣が描かれる。
同時に奴と俺たちの間に大きな門が現れ、魔術で作られた金属製と見えるその門はゆっくりと開いていった。
それは未知の魔術。
俺は、魔王と戦うフェイズがアップデートされる直前に世を去ってしまったため、その魔術を知らない。いくらゲームをやり込んだと言っても実装されていないものは知りようがないのだ。
「なんじゃ、あの魔術……」
どうやら老齢の魔術師も知らぬ魔術らしい。
魔術師が魔術防壁を張っているが、如何ほどの意味があるのか?
……果たして、彼の防壁は無意味であった。
門の中から無数に出現した青白い腕が、防壁をすり抜けて魔術師を掴む。彼は振り解こうと体を捩らせ、その幽鬼の腕に魔術を乱発させるが全て空を切るのみ。
「な、なんじゃ!? 助——」
無数の腕が魔術師を一気に引きずり、門の奥へと連れ去っていく。
静かに閉まっていく門を見つめながら茫然自失。だが、呆けていても死ぬだけだ。すでに次の魔術が行使されようとしているのだから。
「ᛁᚾᛞᛁᚷᚾᚪᛏᛁᚩᚾ」
死は目前。次に死ぬのは俺か? それとも槍術士か?
だが、予想に反して俺たちの命は引き延ばされた。魔王が詠唱の途中でゴフリと血を吐き、地面に片足をついたのだ。
「好機!」
この機を逃さぬとばかりに槍術士が雄叫びを上げて走り出す。
無謀な特攻だろう。おそらくコイツは魔王に殺される。
そして、すぐに俺もあとを追うことになる。
それでも、ただで死ぬつもりはない。
何としても相討ちに持ち込んでやる。
俺は手に持つ二本の短剣に【
一方、槍術士は小細工なしに真っ直ぐ魔王に突撃していく。
「死にさらせや!」
槍が魔王の心臓めがけて走るが、魔王は容易く腕で槍の軌道を逸らした。
——MISS。
次の瞬間には槍術士の首が地に落ちていた。だが、彼の死は無駄ではない。俺が魔王の背後へ回り込むことが出来たのだから。
【
俺が持つ最大火力のスキルであり、発動条件はハイド状態でターゲットの背後を取っていること。
「…………」
無音の中、背後から二本の短剣で魔王の心臓を貫いた。ゆっくりと魔王が振り返る。顔には恐怖も怒りもない。魔王ともあろうものが諦めたような表情を顔に浮かべている。
「ᚩᚱᛖᚻᚪᛱᚩᛱᚩᛗᚪᛞᛖᛱᚪ……。よい……。我はもう疲れた。せいぜい足掻け、来訪者」
魔王は吐き捨てるようにそう言うと、力なく倒れていく。地面にドサリ。それきり動くことはなかった。
「え? 勝ったのか……? 嘘……だろ?」
俺の独り言に答えるかのように、頭の中でレベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。
福音が
≪ システム ≫
Ver.蝗帙?∽コ泌?アップデートを完了しました。
【鬲%皮】に転職しますか?
「繧縺?吶?ゅ■繧阪s縺ァ縺薙→繧」
この変更は取り消し出来ません。本当に転職しますか?
「繧医m吶?励>縺縺/縺ァ?縺薙→繧」
転職に成功しました。おめでとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます