第4話 支配者のスキルと今後の課題

 アラベルタが謝罪し、一件落着に思えたのだが、そうは問屋が卸さない。ルドヴィカが彼を鋭い目で睨みつけているのだ。


「結局、頭を下げるのなら最初からそうしておけば良いのだ。それなのに毎回毎回細いことをグチグチと。吸血鬼はネチネチとしているから嫌だ。スライムに改名したらどうだ?」


「私が細かいのではない。貴様が大雑把過ぎるだけだ。だいたい、その格好は何だ? まさか色香で魔王様を籠絡できるとでも思っているのか? ふんっ……。貴様らしい浅知恵だな」


「……お前は私を愚弄しているのか?」


「その表情……。まさか図星か? ああ、なんと卑しい女だろうか」


「黙れ。灰にするぞ?」


「貴様では無理だな。彼我の差を知れ」


 また始まってしまった……。この二人を見ていると、旧魔王様も色々と大変だったんだな、なんて思えてしまう。


「ケンカするなら外でやってくれよ……」


 この後、副官二人は俺の頭上でしばし口喧嘩をしてから魔王の間を出て行った。


 残された俺は椅子の背にもたれ掛かり、ため息を一つ。


「一人になったし、取り敢えず、状況を整理するか……」


 玉座に座ったまま、まずはスキルウィンドウを表示させる。


「この【裁雷パエニテンティアジーテ】って、たぶん戦士を即死させた魔法だよな……。試しに取ってみようかな」


 こんな状況にも関わらず、スキルウィンドウを眺めているとワクワクしてしまう。

 なんたって魔王が使っていたスキルなのだ。俺たちのような一般人が取得できるスキルとワケが違う。一見して強力なスキルだらけだ。


 スキル名がラテン語やらドイツ語やら英語やら多種多様なのも良い。


 特に【極大獄炎フルフレイムヘルフレア】なんて俺の中二病心をバシバシと刺激してきている。


 スキルの説明には〝地獄の業火で一定範囲を焼き払う(火+風+闇属性)〟とあり、つまりは複合属性の範囲魔術だ。


 このゲームでは、攻撃時、弱点属性の数値が優先される仕様になっており、例えば、雷耐性を持つ敵であっても、雷+光の【裁雷】であれば、光属性が優先されweekを取れる可能性がある。少なくともresistはされない。

 三種類の属性を持つとなれば、それだけ有効な敵も多くなるわけで非常にお得だ。


 とは言え、【極大獄炎フルフレイムヘルフレア】を取得するためには、三つほど下位のスキルを取得し、そのスキルレベルを5まで上げなければならない。


「前提スキルで15ポイント消費しなきゃいけないのか……。悩むなぁ」


 棚ぼた的に得た98のスキルポイント。

 【悪魔からの招待ディアボリックスワンプ】に1振っているから残りは97だ。


 これをどのように振り分けるか……? ゲームをしていて一番悩むヤツである。

 それがポイントの振り直し不可能な現実であれば、なおさら悩む。


「課金でスキルリセット出来れば、こんなに悩まなくて済むんだけどなぁ」


 カッコ良さそうという安易な理由で、未知のスキルを取得するわけにはいかない。キャラクタービルドは慎重に考えるべきだろう。


「説明分を読む限り【永死の牢獄ゼーレンザーグ】は魔術師をやったやつか? 即死系の魔術は……んー、使いずらいよなぁ」


 結局、小一時間ほどスキルツリーと睨めっこしていたが、いつまでも良いことばかり見てはいられない。俺には解決しなければならない問題が多いのだ。


 目下、俺が抱えている問題は大きく分けて三つ。


 一つ。人間に戻れるのかどうか。もう少し突っ込んだ言い方をすれば、魔王であると周りから認識されないようになれるのか、だ。


 どういうわけか、旧魔王とは似ても似つかぬ相貌にも関わらず、俺は周りから魔王と認識されている。

 そもそも、この問題さえ解決できれば、全ての問題が解決されるのだが、今のところ良い解決策は頭に浮かんでこない。

 最悪の場合、人目に付かない場所に逃げ、ひっそりと余生を過ごすことになるだろう。


「出来れば、それは避けたいな」


 二つ。魔王はいずれ討伐される存在であること。


 この世界で俺は二十年以上生きているが、小さな差異こそあれ、おおむねゲームのシナリオ通りに歴史が動いているような気がする。王国で起きた事柄を参考にすると、現在はゲーム本編が開始する前だろうか?

 

 そして、もしゲーム通りに世界が進行し続けるとすれば、いずれ俺はプレイヤブルキャラに相当する人物に討伐されてしまうはずだ。


 当然、勇者の動向にも気を配らなければならないが、まずはプレイヤブルキャラを特定するのが先だろう。


 プレイヤブルキャラの可能性がある種族は、【ヒューマン】【エルフ】【ハーフリング】【ドワーフ】【ハーフデビル】の五つ。


「全種族共通のイベントはチャプター2からだったか? それさえ発生してくれれば、特定できるな」


 もちろん〝この世界にはプレイヤブルキャラに相当する人物なぞ存在しない〟という可能性もあるが……。


 三つ。旧魔王を瀕死の状態まで追い込んだ者の存在。これが最も厄介だ。

 状況から考えると、その強敵は魔王軍の内部にいる可能性が高い。つまり、部下であっても信用できないのだ。


 絶対の忠誠を誓っている様子の副官たちにしても、腹の中で何を考えていることやら……。


 たとえ魔王城に居たとしても常に命を狙われているものと思っておかねばならない。


「寝首を掻かれたら堪らない。まずは安全に過ごせる場所の確保だな」


 当面の目標を立てた俺は疲れた体を癒すため自分の寝室へと向かった。


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