教員とお話しするも
学校が終わり帰宅すると、まずは今日渡された封筒を、自室のゴミ箱に投げ入れる。もちろん丸めてクシャっとなった状態でだ。
意味の無いもの寄越しやがって。まあ、告白文じゃなかったのが、多少の救いではあるが。ただ、名前を聞こうとしてるわけで。教える気は一切ない。
脈無しとなれば勝手に離れるだろ。女子如きに軽くあしらわれて堪るかっての。
晩飯の時間になり、母さんと飯を食ってるが、その後のことが気になるようだ。
「進展あった?」
「なんの?」
「助けた彼女と」
「あるわけがない」
期待するだけ無駄だったかと。
呆れながらも「なんで康介はそこまで、女の子を避けるのかねえ」だってさ。
醜い部分を嫌と言うほど見たから、と説明してもな。必ず「そんな人ばっかりじゃない」と返ってくる。想定される返答しか無いんだから、理由を開示する必要性すら感じない。
「同級生の子とはどうなの?」
「なにが?」
「好かれたり関心持たれたり」
「あるわけない」
誰ひとりとして会話することも無い。唯一は担任の滝田先生くらいか。あれも已む無しだけどな。無言で済ませられないし、会話せざるを得ない。さすがに三十路なら、高校生を手玉に取って、なんて考えるわけ無いし。
深いため息を吐いて「学校でも避けてて、この先不安しかない」と嘆いてる。
女子と付き合わないと、どんな不安になるんだっての。居なくても支障のない存在でしか無いだろ。居るだけで不愉快だし。
「何かあったんでしょ? そこまで避けるんだから」
「言っても無駄だろ」
「無駄かどうかは話してくれないと」
「想定される返答が分かってるから無意味だ」
母さんも女なんだよな。だから女の肩を持つ。理解されるとも思ってない。
「いじめられた? あたしも忙しくて、きちんと見られなかった時期があったし」
小学四年から六年にかけて、母さんは仕事の忙しさとストレスから、テーブルに金だけ置いて知らん顔された。置かれた金で店屋物でも取れってことだ。あの時期に栄養バランスの崩れた食生活。親の愛情を感じ取れず。家事もろくにしなくて、洗濯物は溜まる一方。着るものが無くて一週間、同じ服と下着、なんてこともあった。
普通に考えても子どもが腐るぞ。
グレずに居るだけでも儲けもん、って思ってもらわないとな。
「息子がこんな風になるのは親の責任だよね」
今さら謝っても取り返しがつかない、と言ってる。
空白の三年間で人格が歪んだんだろうと。仕事を言い訳にして息子を顧みなかった。その報いを今受けているんだと、悲しげな表情で言ってるな。
悔やんでも悔やみきれないそうだ。
確かに今さらだな。
翌日、いつも通りの電車内。臭い。独特の
悪臭ばっかり振りまきやがって。
でだ、また隣に来るし。
なんだよ。返事を期待してるのか? 何も無いぞ。
もじもじ、俯いてちらちら。
俺の傍に来るなっての。昨日よりさらに距離が近い。触れ合いそうな距離まで近付きやがって。嫌悪感しか無いんだと理解しろっての。
「あ、あの」
話し掛けるな。睨むと俯く。
無言のまま学校最寄り駅に着くと、情けないツラ晒しやがって。眉をハの字にして泣きそうだけど知らん。泣けば気を引けるなんて、女子の常とう手段に引っ掛かる俺じゃない。
そのまま無視して下車した。
甘い顔してると、いつまでも付き纏いそうだ。ここできっちり引導を渡すのもありだな。付き合う気も無ければ、話をする気もない。接触する気も無いんだから。
学校に行くと友人が絡んでくる。
「あのさあ、女子が少し話したいみたいだけど」
「無い」
「いや、頼まれたんだよ」
「無い」
少しは話を聞けと言われてもな。嫌なものは嫌。この学校の生徒なら、俺が女子を避けてるのは周知の事実だろ。それを知った上でなんとかなる、なんて甘い考えを持つなっての。
誰に頼ろうとも結果は覆らない。
「ってことで、断れ」
「お前なあ……ほんと、意固地だよな」
「意固地じゃない。嫌いなんだっての」
いい加減理解しろ。
「それはそうと、電車の子、名前教えたのか?」
「聞くまでも無さそうな表情だよな」
「無視した? してそうだよね」
当然だ。シカト一択。
「聞く必要あるのか?」
「無かったよ。そうだよな、長沼だもん」
「どんな子か知らないけど、可愛かったら勿体ないよなあ」
「あ、それあるよな。せっかくの縁をぶち壊し」
ホームルームになると滝田先生が、放課後話しがあるからと。
またかよ。今度は何だっての。
午前午後の授業を終えて職員室へ行くと「進路相談室に行こうか」だってさ。
「なんでです?」
「他の先生に聞かせない方がいいでしょ」
「つまり、先生が俺を襲うと」
「お、襲うわけ無いでしょ」
そんな行為に及べるなら、もっと若いうちに生徒に手を出す、とか言ってるし。
この先生、半分壊れてるだろ。長いこと独身やってて。ああそうか、あんまり長い間独り身だと、壊れることもあるのか。まあ異性を求めるならば、の条件付きだろうけど。
俺は大丈夫だな。異性なんて要らんし。
進路相談室に入ると「座って」と。
対面に滝田先生が座ると「えーっとね、そろそろ長沼君には、女子と打ち解けてもらおうかなって」とか言い出した。バカなのか?
「明確な説明とエビデンスを」
「あのねえ……」
「それで? なんで女子と打ち解ける必要があるんですか?」
女子の中から俺の雰囲気が悪くて、何かを任せたくても声すら掛けられない。学校内行事の際にも支障が出る。男子とは問題無いのに、露骨過ぎてとクレームが入ったらしい。
うぜえ。自分たちの思い通りに行かないと、先生に捻じ込むその腐れ根性。さすが女子。腐り具合は半端ないな。
「クレームだけじゃないけどね」
「他にもあるんですか」
「仲良くしたい子も居るの」
「要らないです」
頭抱えて唸らなくても。
「あのね、普通は男女関係なく、学校生活を営むものなの」
「男子校にすればよかった」
「そうだね、じゃなくて、共学校に居るんだから、多少は融通利かせてって」
「御免被るって奴です」
先生とは話ができるのに、なんで生徒とは全く会話が無いのかと。
「教員と会話しないと成績に影響しますよね? 進路相談でも指導の際でも、必要だから已む無くって奴です」
シカトしたら内申にも影響しかねない。
「だから先生は異性と認識せず、ただの教育ロボット」
テーブルに突っ伏さなくても。
顔を上げると「重症だ」とか言ってる。何がだよ。
こうなったのも、全ては女子の行動や思考、態度が原因だろうに。自分勝手で相手を一切顧みない。なんでも顎で扱き使えると思ってる。おだてりゃ豚も木に登るとか思ってんだろ。
施されることに慣れて、相手に何かをするなんて微塵も考えない。
あくまで自分本位。これでどうして仲良くとか、できるってのかって話しだ。
「でしょう?」
「女子をどう見てるの?」
「今言った通りです」
「じゃあ先生もそうなんだ」
当然。ただし。
「立場が対等だったら」
「立場ねえ」
「教員と生徒では明確に立場が異なりますからね」
「そうだけど」
ひとつだけ、今回の話で安堵できる部分はあったそうだ。
「今後、就職した際に立場が上の、女性上司なら無視しないんだよね?」
「まあ、それしたらクビでしょうから」
「その程度には弁えてる。なら、もう一歩踏み出そうとか」
「不要です」
頑固すぎるとか言って嘆いてるし。
先生には手に負えないほどに重症だとか。だから、それを言うなら女子に言え。自己中の権化みたいな奴らじゃねえか。
「乞食如きにひれ伏せと?」
「乞食って……女子をどう思ってるの?」
「それ、母さんにも聞かれたけど、乞食と」
言葉も無いようだ。
「そんな子、ほんの一握りも居ないのに」
「逆ですよ逆。極わずかにマシな奴。残りは全部ゴミ」
泣けてくると。
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