第一話 『紺碧の底から来たりて』 その163


「私が、そ、それらの所業をしたことになるだとッッッ!!?な、何てことをしてくれたのだッッッ!!?」


「安心しろ。名誉回復は、後でしてやる」


「どうやって!?貴様に拉致監禁されている状態では、い、言い訳もできんのだぞ!?」


「オレが、後日、犯行声明を出してやる」


「やっぱり、異教徒のテロリストと同じようなことを言っているじゃないか」


「しなくていいのか、犯行声明?」


「い、いや。しろ。そうじゃないと、私が、数々のテロをしたことになるのだろう?」


「セザル・メロを暗殺して、爆破して、焼き払った。邪悪な『寄生虫』の実験がされていた『地下病院』跡地を炎で浄化して。君の願望と、一致してる部分もあるはずだ」


「たしかに。そう。私だって、お山が許せば、それをしたいとも願う。だが、帝国軍と『カール・メアー』は協力関係にあるのだぞ。政治とかいうもののせいで、あまり、派手な活動はやるなと……だから、わざわざ、一思いに侵入せずに、時間をかけて、こっそりと……」


 『戦闘』が起きてから時間を置いて『地下病院』に潜入したのは、そういう理由があったからか。一応は、考えているようだ。『カール・メアー』も過激さだけでは、世俗との折り合いがつかないことを学びつつあるのかもしれん。


 あちこちで怖がられている。ユアンダートがお墨付きを与えたとしても、現場の全員が彼女たちの過激な介入を好むはずもない。『血狩り』を悪用して、政敵を陥れようと企む者も、少なからずいるだろうしな。そもそも、戦場に現れるにしては、政治的過ぎるんだよ。


「困った。私のせいで、帝国軍と『カール・メアー』のあいだに誤解が生まれるかもしれないじゃないか」


「そうなるように工作したんだ」


「い、意地悪な『大魔王』め!!!」


「しょうがないだろう。君と出会う前に、仕掛けちまったんだ。後日、誤解を晴らしてやるから安心しろ。むしろ、今、君を解放すれば、どうなるかな」


「……え?」


「帝国軍は殺気立っているはずだ。『カール・メアー』に、『地下病院』で行っていたことの秘密が伝わることを恐れ、襲撃者である君のことを見つけて八つ裂きにして海にでも捨ててしまいたい気持ちになっているんじゃないかな」


「尼僧になんてことをしようとするんだ!?」


「誰だって、自分の組織の安泰を願う。そういう感情は、君にも理解できるだろう」


「う。まあ、そう、だな。お山あってこその、我々ではあるし……」


「『ルファード』の帝国軍の新しい指揮官も、同じように願う。ボーゾッドから奪い取った権力を、安定的に掌握しておきたいだろうから」


「だ、だから。私を、殺そうと企むと?」


「死人に口なし。昔から伝わる、とても有効な情報隠蔽の技巧じゃないか」


「て、帝国軍めっ!!恥を知れ!!」


「保護してやるから、安心しろ。オレのせいにすればいい。真実は、その通りだ。たとえ、君が路地裏に犯行声明を書いていたとしても、オレがしたことなんだ」


「何てことを!?お山に、どれだけ私がしかられることになるか!?下手すれば、破門されてしまうかもしれないだろう!?」


「女神イースはどう言うだろうな?」


「なに!?」


「自らが破門されるという利己的な理由で、『正義』を成さない。そういう行いは、本当に『カール・メアー』らしいのか?」


「それは……いや、『カール・メアー』の使徒ならば、自らの破滅など問わない。正しいことをすべきだと……」


「ならば、問題はない。『カール・メアー』も、君から事情を説明すれば、理解してくれるさ。帝国軍のリヒトホーフェンの下で働いているセザル・メロが、数百人の帝国兵士の死体で『寄生虫』を増やすという悪行をしていた。それを『大魔王』が燃やし、君は捕まり利用されていただけだと報告すればいい」


「…………『大魔王』なのに、正しいのか」


「『正義』は人それぞれに異なる。帝国の『正義』と、オレの『正義』は全く違う。おそらく、君らの『正義』もな。いずれの『正義』も、自分にのみ正しい。他人から見れば、大なり小なり歪んでいるものだ」


「……お山の外は、私にはフクザツ過ぎる気がしている……」


「帰るのも選択肢だぞ。異端審問官や、密偵など、年頃の少女がすべき行いではない」


「しかし、女神イースの教えの通りに、世界を変えねばならない。それが、我々の使命だ」


「そうしてければ、そうすればいい。しかし、二、三日は、オレの捕虜として過ごしてもらうことになるぞ」


「そ、そうじゃないと、帝国兵に誤解されたまま殺されかねんということか」


「ああ。嫌だろう?」


「……うん」


「じゃあ、このやさしいソルジェ・ストラウスお兄さんが、君のことを保護してやろう」


「そ、ソルジェ・ストラウスだと!?……竜、竜と聞いて、まさかとは、思っていたのだが……」


「自己紹介をすべきタイミングかと感じてね。一蓮托生の仲となったわけだ。オレが犯行声明を出さなければ、君は一生お尋ね者だ」


「本当に一蓮托生ではないか!?ううう……なんてことだ、帝国の敵と、私は結託せねば、未来は閉ざされてしまうというわけか!?なんたることだあああ!?」


「細かいことを気にせずに、せっかくだから仲良くやろうぜ。せいぜい、数日間のガマンだ。さてと、君の名前は?言いたくなければ、無理に問わないが……知っていた方が便利じゃあるだろ」




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