序章 『雨音は湖畔の屋敷に響く』 その91
……というわけで、休暇の夕方はしっかりと遊んだよ。湖畔の散策と、小さなボートを借りて泳ぐゼファーと並んで走らせたり、ゼファーにボートを鼻先で押してもらったりと、有意義な時間を過ごせた。
みんなに『牙』の生えた竜太刀を披露するのも、当然ながら忘れちゃいない。『気配』のコントロールについては、ちょっと触れるだけ。詳しくは、また後日、オレの説明よりもロバートの書いてくれたテキストを頼ることにしたよ。今日は、休日なんだしね!
しっかりと遊んで、夕飯の時間だ。
『ツェベナ』からの特上フルーツが配達されて、『ショーレ』からは昼飯とは別の料理人がやって来てくれる。こっちの料理人も天才だったね。イワシではなく、がっつりとした肉料理さ。
分厚い牛のステーキと野性味ある肉の魅力を引き出す酸味たっぷりのフルーティーなソース、紅茶漬けにして作った柔らかく煮詰めて作った豚肉と夏野菜のサラダ、醸成された芳醇で辛口な赤ワインも最高だった。
晩飯には、ジャンも顔を出せたよ。すっかりと体調は回復していた。『狼』モードで席に着いた様子は、なかなか面白かったがね。椅子に座る『狼』を見ることなんて、そうないさ。サーカスでも見つけられないかもしれん。
ワインの飲み方を、教えてやりたくもあったが……。
明日に備えて眠ることも必要だからな。南東の海に、向かうこととなる。『迷宮都市オルテガ』から遠くない海で、襲撃され奪われた『プレイレス』の商船……船員を救助できれば、敵についての情報も得られるというわけだ。人命救助と情報収集を兼ねた作戦となる……。
ジャンの鼻は、欠かせない。
ワインの味わいを教えてやるよりも、ここは体調回復を優先したんだ。休暇の終わりの夜なんてものは、まあ、こんなところさ。
だから、オレだってワインを控え目にしておいたよ。良い味だし、『家族』と一緒にいて、仕事から解放されている状況では吞みやすいものだから。
貴重な『ゲスト』も一緒だしね。本来ならば、一晩中でも飲み明かすべきではあるが、仕事のために我々はその素敵な機会をあきらめなくてはならなかった。
「残念じゃある」
「いいえ、また会食を開きましょう」
「そうよ。弟くんたちとも、一緒に。私たちがもてなしてあげるわ、ストラウス卿とそのご家族の皆様を」
「クロエは料理も上手なんだ」
「そ、そこそこ、上手だけど。プロの作った料理を前にしながらだと、自信は失くすわよ。だから、そのときは弟くんのお財布を頼ることにするわ」
「うむうむ。弟は、姉に仕えるべきであるからして、しっかりとカイ・レブラートから金を巻き上げてやるといい!」
「そうだ。あいつは生粋の金持ちだし、芸術を支えてがってもいる。パトロンとして、使ってやるといい。あいつの格も上がるだろう」
『自由同盟』の『非公式の外交官/スパイ』でもあり、最近は『公式の外交官』でもあるストラウス家のお兄さんと、『プレイレス』で尊敬を集める『ショーレ』のアーティスト、その両者に縁を持つお坊ちゃまだ。これ以上の出世にだって、期待している。
「カイさんは、なかなか見どころがある方ですからね。『十大大学』の学生たちをまとめ上げた政治的手腕もあります。商人をしながらでも良いので、政治にも関わって欲しいところです」
「はい。妹も、商いだけでなく『レフォード』では政治学も習っていましたから。サポートしてやれると思います。彼は、『プレイレス』の若者のリーダーになれる器ですから。だから……そうですね、思い切って、たかりましょう!」
「それでいんですよ。食事会の席でも、仕事は進む。絆は作れますから。政治をする場所として、悪くありません。そのチャンスを商人が得られるのならば、高級料理を振る舞うことだって、まったく安くありませんから」
……ということらしいので、思い切り、派手にもてなしてともらうことにしたよ。
「そのときまでには、『遺作』も形にはなっているだろう。『奇跡の少女』の像もな。私も、呼べということだぞ」
「もちろんだ。マエスにも、世話になるからね。これからも」
「お抱え芸術家にでもしてくれるのかな?」
「して欲しいなら、その願いは叶う。して欲しいのならば、な」
「自由な旅の空がいい。だが、寄るための家が多いというのも、旅を面白くするものだ」
「ガルーナの王城に、お前の居場所はいつでも、いつまでもある」
「いい言葉だ。パトロンとなってくれよ、ガルーナの魔王さま」
いい晩餐だったというわけだよ。
長い時間じゃなかったがね。皆、それぞれにすべきことがあるから。最後に、ワインとジュースの入ったグラスとコップを掲げ、『次の宴』の開催を誓い合った。
そのあとは。
風呂に入って、早めの就寝ということになる。
……まあ、就寝といっても、ベッドでゴロゴロしながら……ヨメたちに甘えることだって、ストラウス家の子孫繁栄という役目を背負っているオレからすれば重要なお仕事でもあるわけさ。
リエルを組み倒して、大きなベッドに仰向けで釘付けだよ。
「……スケベめっ」
「リエルが魅力的だから、しょうがないよな」
男はスケベだった。いつものことだし、世の中の常識でもある。少々、スケベな方が正しいと思うんだよ。とくに、若いヨメさん三人と一緒に過ごす夜にはね。
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