第3話 引き金

 私がうつ病を発症したのは、十数年前、20代後半の頃だった。


 当時は児童館で働いていた。

 児童館で働こうと思ったのは、その頃は自分が子ども好きだと思っていたからだ。

 高校時代は、地域の小中学生のイベントを手伝うボランティアサークルに所属していた。


 私が勤めていた児童館はやんちゃな子どもが多く、ただでさえ大変だったのだが、障害を持った小学5年生の男の子がひとりでよく遊びに来ていた。その子は感情をうまく言葉で表せなく、ぐに手を出してしまう子どもだった。周りにも馴染なじめていなかった。

 親は完全に育児放棄。子どもが障害を持っていたから育児を放棄したのか、ネグレクトがきっかけで子どもが病んでしまったのかはわからない。


 とにかく、その子どもの面倒を見るのが大変だった。他の子どもに手を出してしまうので、私が止めに入るのだが、そうすると私のことをこれでもかと殴ってくるのだ。

 小学5年生ともなるとかなり力も強い。とはいえ、子ども相手にこちらが手を出すわけにもいかない。私は他の子どもを守りながら防御に徹していた。そんなことがほぼ毎日だった。私の体はあざだらけだった。


 それに加え、私以外の職員は全員女性だった。中年女性が3人、私より何歳か年上の女性が1人。同い年くらいの女性が1人だった。

 歳の近い女性とは馬が合ったが、中年女性からはいびりに近い接し方をされた。当時の私は中年女性のあしらい方にまだ慣れておらず、心底苦痛だった。


 心も体もボロボロになった私は、気づくと薬に手を伸ばしていた。風邪薬や頭痛薬を大量に飲んだ。目が覚めると、私は病院のベッドの上にいた。

 

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