第2話 母という生き物②
私の趣味は美味いものを食べることである。それゆえ、家事の中でも唯一料理だけは好きだ。料理を自分好みの味付けにできるなんてこの上ない。
ひとり暮らしをしていた頃は自炊もしていたし、よく友人に手料理も振る舞っていた。
しかし、実家に戻ってからはすっかり料理を行わなくなってしまった。
実家に戻ってすぐの頃、何度か料理を行おうとしたのだが、どうも母が好い顔をしないのだ。どうやらキッチンは母の聖域らしい。
正直、母が作った料理の味付けは私の好みではないものが多い。作ってくれるだけでありがたいし、文句を言わずに食しているが、たまには自分好みの味付けが食べたい。
医師からはタンパク質を多く摂るようにと言われたが、いろいろ調べた結果、食物繊維も多く摂った方が良いらしい。そのような情報を得たからか、自然と体が欲しているのかわからないが、無性に野菜が食べたくなった。
我が家の食卓にも野菜は並ぶが、どうも量が少ない。久しぶりに自分で料理をしようと決意した。
しかし、料理をするには、キッチンを使わなければならないという高いハードルがある。だが、私は料理をするチャンスを見つけた。
肝不全と診断される少し前から、体調不良と鬱の症状で会社を休んでいた。そこで初めて気づいたのだが、母は毎日決まって午後の1〜2時間、庭仕事を行うのだ。その時間であればキッチンを使用してもばれるまい。
スーパーマーケットに買い物に行った。私はスーパーマーケットを巡るのも好きだ。白菜、キャベツ、椎茸、エリンギ、ぶなしめじ、鶏肉、帆立貝などを買った。いくつかの料理のプランがあった。料理は翌日に行うつもりだった。
夕方、肝不全の治療のため、点滴を打ちにかかりつけの病院に行った。点滴が終わって帰宅すると、母が夕食を作っていた。
「ただいま。」と私が母に伝えると、母からは、「おかえり。食材をいっぱい買ってくれてあったから、今日はお鍋にしたよ。」と返答があった。
私が買った食材はすべて鍋の材料になっていた。
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