第十話 独白


「ななみゃー、ランキング見た?」

「興味が無い。その呼び方は止めろと言ったはずだ、八尋」




 人気ランキング。


 この学園は、全寮制男子・・校にも関わらずそんなランキングが存在する。思春期というのもあって、同性同士の恋愛に発展することがあってもそれは仕方が無いと思う。そんなこと個人個人の自由だ。

 僕は昔からかわいいものが好きで、いわゆる「女の子っぽい」色や、柄、キャラクターなどが好きだったから、そういうことに対して偏見がない。


 だからか、この学園にはかわいい生徒が多い。


 去年在学していた先輩はロリ顔でかわいらしかったし、現生徒副会長は美人、見た目にも気を遣っている子が数多くいて、むさ苦しくはない。まあ、中には男前な奴も色男も、かわいくない奴も色々居るんだけど。


「駄目だぞぅ、ななみゃー。少しは人に興味を持たないと」

「……ふん。それで?」

「それがさあ、新入生の子が一位になったんだって」


 だから?と心底どうでもよさそうな顔で、ななみゃーが僕を見る。だって、新入生が一位になることは滅多に無い。しかも、今回一位になった子は新入生代表の子。

 入学式に出席できるのは新入生と、生徒会、学内のゴシップを取り扱う新聞部やその他学校関係者。そう、在校生は出席できない。なのに、何故・・彼は一位になったのか。それは、さっき言った新聞部が関係してくる。


 新聞部がすぐに、新入生代表の写真を学内のSNSにアップしたのだろう。

 写真だけで彼は、一位になった。そんな彼が気にならないわけがない。



「あ~、早く会いたいなぁ」

「…そんなに待たずとも会えるだろ、この後」

「それまでが待ち遠しいんだよ」






「…――わぁ、」



 あれ程待ち遠しかった時間は、あっと言う間にやって来た。

 嫌がるななみゃーを連れて、我先に辿り着いた食堂。僕達が一番乗りかと思いきや、ちらほら新生徒会を見るために集まった子達が居る。もちろんのこと、会長や副会長、会計の親衛隊は勢揃いだ。流石と言うか、何と言うか。

 僕とななみゃーは見えやすいように最前列をキープして、いざ扉が開いて食堂から入ってきた彼を見て、僕は口を大きく開けた。



 実際にこの目で見たかったから、SNSを見るのは控えていた。

 黄色い歓声の中、副会長の背中に身を隠すように、身体を縮こまらせる代表の子。それはまるで、周囲を警戒し、尻尾を膨らませた小猫ようでかわいかった。


 この学園にはかわいい子がいても、僕が思うかわいい子はいなかった。

 少し癖のある黒色の髪は、凛とした黒猫を連想させ、眠たげな眼は日向で微睡むネコチャンそっくりだ。黒猫を擬人化したら、正に彼のような姿になるのではないだろうか。

 そんな感じで、彼は今まで見た中で、僕の好みのドストライクそのものだった。


「ねえ、ななみゃー…七宮?」

「……――ぁ」


 あの子、かわいいねえと同意を求めるつもりで、ななみゃーを見たけど、その顔を見て口を閉ざす。どうした?なんて言葉は口から出なかった。いつも見せない、何かを待望する顔で代表の子から視線を外さないななみゃー。そんな場違いな発言をする程、僕は馬鹿ではない。

 無愛想なルームメイトの表情を崩すくらい、彼に感じ取るものがななみゃーにもあったのだろう。


 ねえ、七宮。

 僕、いいことを思い付いたんだ。これを話したら、お前は頷いてくれるよな。




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